【研究テーマ】
無限の可能性を秘めたKen理論™を、いかに活用していくかが、今後の我々の課題と考えております。
自然環境や、産業分野において、どのように、社会に還元していくかが重要だと感じております。
21世紀の産業革命を起こせるものと確信しております。
加えて、自然環境面においては、地球温暖化対策−5℃を実現し、現在の子供達の未来を明るく豊かなものにすることこそが、我々の最重要使命と考えております。2人の孫を持つ私としては、何よりも果たしたい使命なのです。
そこで私は、Ken理論™の創設者であり当社CSOでもある中島に、以下の研究を依頼しました。
①地球温暖化対策−5℃達成。
②産業分野での、革命的な課題解決。
これらの実現によって、地球全体、社会全体が豊かで明るくなることを心より願っております。
[Title] Formation, Maintenance, and Recovery of a Temperature State at Least 5°C Below the Non-Intervention State in Large-Scale Open Real-World Environments — A Coupled Non-Equilibrium Physics Problem Spanning Heat, Radiation, Fluids, Matter, Phases, Interfaces, Gravity, Surface, Subsurface, and Water Systems, and Earth–Space Environmental Interactions —
[日本語Title] 大規模開放実環境における、非介入状態より最低5°C低い温度状態の形成・維持・回復 ― 熱・放射・流体・物質・相・界面・重力、地表・地下・水系及び地球―宇宙間の環境相互作用にわたる結合非平衡物理問題 ―
[Author] Ken Nakashima
[Date of Publication] Aug 08, 2026
- 研究目標
- 第1章 既存の地球温暖化対策、とりわけCO₂中心型施策の現状と累積する課題
- 1.1 CO₂削減量と最終的な温度変化との間に存在する長い因果距離
- 1.2 排出削減、濃度低下、放射強制力低下及び温度低下は同一ではない
- 1.3 CO₂eは実世界に存在する一種類の温度状態ではない
- 1.4 全球平均温度への介入と限定区域の熱環境形成は別問題である
- 1.5 長期間の政策実施にもかかわらず温度目標との距離が残されている
- 1.6 巨額の社会的資源投入と最終温度効果との対応が見えにくい
- 1.7 集合行為の必要性と個々の政策手段の費用対効果は別問題である
- 1.8 再生可能エネルギーの大量導入は発電設備だけでは成立しない
- 1.9 脱炭素化は資源依存を消滅させるのではなく、一部を別の物質系へ移す
- 1.10 CCS・CDR・DACCSにも巨大な物理系が必要になる
- 1.11 system boundaryの設定によって成果が変わる
- 1.12 CO₂だけを操作しても気候forcing全体を単一変数として扱うことはできない
- 1.13 政策入力と物理的温度出力との間に社会システムが介在する
- 1.14 目的関数の膨張によって温暖化対策そのものの費用対効果が見えにくくなる
- 1.15 機会費用――同じ資源を別の方法へ投入した場合との比較が必要になる
- 1.16 CO₂というproxyが最終的な実世界状態を隠す問題
- 第2章 温度を直接低下させる巨大冷蔵庫方式と、その物理的帰結
- 第3章 背景技術
- 3.1 既存の温暖化・高温環境対策と直接的温度状態形成との技術的差異
- 3.2 巨大建築構造物による直接冷却と巨大排熱処理問題
- 3.3 可視的又は不可視的シールドによる境界形成と、その物理的危険
- 3.4 放射冷却によるsub-ambient stateの形成
- 3.5 複数物理過程を利用するHybrid Cooling
- 3.6 都市・地域スケールで既に形成されている数°C級の温度差
- 3.7 Thermal Metamaterialsと熱流経路の設計
- 3.8 動的材料、相及び界面を利用した物理状態制御
- 3.9 人工温度状態と大気境界層における非線形feedback
- 3.10 地表・地下・水系・大気から地球―宇宙まで連続するsystem boundary
- 3.11 古典物理から量子・材料物理までの階層接続
- 3.12 固定された装置から、状態・境界・経路が変化する物理系への拡張
- 3.13 既存科学の到達点と、なお統合されていない中心問題
- 3.14 本研究主体が有する領域横断的理論体系と本研究への適用基盤
- 第4章 解決すべき課題
- 【解決すべき課題】I.要求状態及び基準状態を確定する課題
- 【解決すべき課題】II.熱・放射・物質・運動量収支を成立させる課題
- 【解決すべき課題】III.開放大気及び流体系に固有の課題
- 【解決すべき課題】IV.物質・相・界面・輸送構造を構成する課題
- 【解決すべき課題】V.異なる物理階層を接続する課題
- 【解決すべき課題】VI.状態空間、到達可能性及び動的境界を構成する課題
- 【解決すべき課題】VII.非線形安定性、崩壊及び回復を解明する課題
- 【解決すべき課題】VIII.観測、状態推定及び実時間物理状態再構成の課題
- 第5章 課題を解決するための手段
- 5.1 本研究にKen理論™を適用する理由
- 5.2 Continuityを前提とせず、成立条件として扱う
- 5.3 Nakashima–Landauer Geometric Bound(NLGB)による熱力学的実行可能性の評価
- 5.4 Nakashima–Landauer Quotient(NLQ)による実行可能futureの選択
- 5.5 動的境界そのものを実行対象とする
- 5.6 非Hermitian Exceptional PointをCollapse及び状態再構成の境界として扱う
- 5.7 Collapse Filteringによって破局的futureを実行前に除去する
- 5.8 Formation、Persistence、Recoverability及びContinuityを一つのRuntimeとして構成する
- 5.9 Accessibility Dynamics、Geometry及びField Theoryによる将来状態の構成
- 5.10 Residual-Driven Reprojectionによる実時間再構成
- 5.11 Future-option Preservationによる回復可能性の保持
- 5.12 本研究におけるKen理論™の統合的適用
- 第6章 温暖化対策の問題設定の再構成――排出削減から実世界状態形成へ
- 第7章 Ken理論™について
研究目標
本研究の目的は、大規模開放実環境において、対応する非介入状態と比較して区域平均大気温度が最低5°C低い実世界温度状態を形成し、その状態を維持するとともに、外乱その他によって要求状態から逸脱した場合にも回復可能とし、さらにそのFormation、Persistence及びRecoverabilityが将来にわたって成立可能であるContinuityを実現するための物理的成立条件を明らかにすることである。
本研究における「最低5°C」という定量的要求は、研究開始時に企業側から提示された要求仕様を起点とする。一方、その後に実施した背景技術の調査では、2014年の放射冷却研究において、850 W/m²を超える直接日射下で、特定の冷却体について周囲大気温度より4.9°C低いsub-ambient stateが実験的に報告されている。
企業側から提示された最低5°Cという要求仕様と、この既存研究における4.9°Cという実験結果とは、それぞれ独立して成立した事実であり、前者が後者を根拠として設定されたものではない。また、既存研究における4.9°Cは特定の冷却体と周囲大気との温度差であるのに対し、本研究における最低5°Cは、大規模開放実環境における区域平均大気温度と、対応する非介入状態との温度差を意味する。したがって、両者は評価対象、空間尺度及び基準状態が異なり、同一の温度低下性能として直接比較されるものではない。
ただし、異なる評価対象及び条件の下ではあるものの、既存研究において約5°C級のsub-ambient temperature differenceが実験的に形成されていることを背景技術上の到達点の一つとして踏まえ、本研究では、企業側から提示された最低5°Cという要求仕様を明確な定量的基準値として採用する。本研究における最低5°Cは達成効果の上限を意味するものではなく、物理的に成立可能である場合には、それを超える温度低下も研究対象とする。
この要求状態を実現するため、本研究では、特定の冷却方式又は単一の操作変数をあらかじめ解として設定しない。熱、放射、流体、物質、材料、相、界面、重力、地表、地下、水系及び地球―宇宙間の環境相互作用を含め、要求状態のFormation、Persistence、Recoverability及びContinuityに実際に関与し得るPhysical Degrees of Freedomを対象とし、それらの結合した非平衡過程を取り扱う。
また、対象区域における温度低下のみをもって研究目的の達成とはしない。介入に伴って移送又は再配分される熱、放射、物質及び運動量について、その移送先及びその後に形成される物理状態を必要なsystem boundaryまで追跡し、対象区域における要求状態の形成が、同等又はそれ以上の物理的問題を別の区域又はより大きな物理系へ単純に転嫁することによって成立していないことを評価する。
したがって、本研究が対象とするのは、単なる一時的なtemperature reductionではない。対応する非介入状態より最低5°C低い区域平均大気温度を現実の大規模開放実環境にFormationし、そのPersistenceを成立させ、外乱後にもRecovery Pathを保持し、将来の実行可能状態及び回復可能状態を失うことなくContinuityを成立させ、さらに必要なsystem boundaryにおいて物理的整合性を保持することが、本研究の具体的な研究目的である。
第1章 既存の地球温暖化対策、とりわけCO₂中心型施策の現状と累積する課題
地球温暖化への対応は、長期間にわたり、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの人為的排出を削減し、大気中濃度の増加を抑制することを中心として構築されてきた。その結果、省エネルギー、再生可能エネルギー、電化、原子力、森林その他の吸収源、Carbon Capture and Storage(CCS)、Carbon Dioxide Removal(CDR)、Direct Air Carbon Capture and Storage(DACCS)、炭素価格、排出量取引、補助金、規制その他、多数の政策・技術体系が導入されている。しかし、これらを「CO₂を何t削減したか」「再生可能エネルギー設備を何GW導入したか」「いくら投資したか」という上流側の成果量ではなく、最終的に現実の地球環境又は人間が存在する熱環境をどの程度変化させたのかという物理的成果まで追跡すると、現在のCO₂中心型施策には多数の構造的課題が累積していることが分かる。
1.1 CO₂削減量と最終的な温度変化との間に存在する長い因果距離
第一の問題は、政策及び技術によって直接操作されている量と、最終的に改善しようとしている温度状態との間に長い因果連鎖が存在することである。人為的CO₂排出量を削減すること自体は、対象環境から熱を直接除去する操作ではない。排出削減は将来の累積CO₂排出量を変化させ、それが大気中CO₂濃度の時間発展へ作用し、放射強制力を変化させ、さらに大気、海洋、陸域、雪氷圏、水循環、生物地球化学循環その他を含む地球系のエネルギー収支を経由して、最終的に全球及び地域の温度応答として現れる。
したがって、CO₂排出削減量 → 大気中濃度 → 放射強制力 → 地球系エネルギー収支 → 気候応答 → 全球・地域温度 → 個別実環境という複数段階が存在する。1tのCO₂排出を回避したことは、ある地点の温度を特定量低下させたことと同義ではない。まして、特定の都市、街区、リゾート、住宅地域その他の実環境について、翌日又は翌年に何°C低下するかを1t-CO₂という数値から直接読み取ることはできない。
この問題は単なる換算方法の不足ではない。現在の主要な温暖化対策が、最終的な温度状態そのものではなく、その遥か上流側に存在する排出量を主要な操作変数としていることから生じる構造的特徴である。
1.2 排出削減、濃度低下、放射強制力低下及び温度低下は同一ではない
第二に、CO₂排出削減、大気中CO₂濃度の低下、放射強制力の低下及び温度低下は、それぞれ異なる物理現象である。ある量の将来排出を回避しても、大気中に既に存在するCO₂が同量だけ除去されるわけではない。また、net zero CO₂は大気中CO₂濃度をゼロにすることでも、産業革命以前の濃度へ直ちに戻すことでもない。
したがって、「排出を何%削減した」という成果と、「現実の温度を何°C変化させた」という成果は同一ではない。 この区別を曖昧にすると、排出量、設備容量、投資額等の中間的成果が巨大であることによって、最終的な温度効果まで巨大であるかのような印象が形成され得る。
1.3 CO₂eは実世界に存在する一種類の温度状態ではない
第三に、CO₂ equivalent(CO₂e)という共通尺度にも物理的限界が存在する。CO₂、CH₄、N₂Oその他は、大気中寿命、放射特性、化学反応、空間分布及び時間応答が異なる。これらをCO₂eへ換算することは政策、会計及び比較のためには有用であるが、1t-CO₂eという一種類の物質又は一種類の温度状態が自然界に存在するわけではない。
したがって、CO₂eの削減量と、特定地点・特定時刻の温度変化ΔT(x,t)は異なる量である。 炭素会計上は異質な作用を一つの数値へ集約できる一方、その集約によって、それぞれの物質が実際の気候系で有する寿命、分布、放射作用及び時間応答の差は失われる。
1.4 全球平均温度への介入と限定区域の熱環境形成は別問題である
第四に、CO₂中心型施策が主として対象としている全球平均温度の長期軌道と、人間が実際に生活する限定区域の熱環境とは、空間スケールも支配物理も異なる。都市、街区、道路、建築物、緑地、水面その他の実環境における温度は、全球的な温室効果ガスforcingだけではなく、日射、長波放射、湿度、風、移流、乱流混合、蒸発、凝縮、地表面特性、熱容量、熱伝導、植生、水、建築形態、人工排熱その他多数の条件によって形成される。
したがって、全球平均温度を0.01°C変化させる問題と、限定された実環境の温度状態を2°C、3°C又は5°C変化させる問題は、物理的にも制御工学的にも同一ではない。 前者は全球的な放射強制及び長期気候軌道への介入であり、後者はその場所で実際に成立している熱・放射・流体・物質その他の状態を対象とする問題である。
1.5 長期間の政策実施にもかかわらず温度目標との距離が残されている
第五に、CO₂削減を中心とする政策体系は既に長期間実施され、膨大な政策、投資及び技術導入が積み重ねられているが、現在実装されている政策と掲げられた温度目標との間にはなお大きな距離が存在する。2025年の国際的評価では、各国が現在実施している政策に基づく今世紀の温暖化見通しは約2.8°Cであり、新たな削減公約を完全に実施した場合でも約2.3~2.5°Cとされている。
これは、CO₂削減施策が存在していないことを意味するのではない。むしろ逆であり、数十年間にわたり政策、規制、技術、投資及び国際制度を構築してきたにもかかわらず、現実に実装された体系が、それ自身の掲げる温度目標へ到達する軌道をなお形成できていないということである。この差は、単なる研究段階の技術不足ではなく、政策目標、実装速度、資本、インフラ、社会行動及び最終的な物理応答までを含むimplementation gapである。
1.6 巨額の社会的資源投入と最終温度効果との対応が見えにくい
第六に、投入される資本と、最終的に得られる温度効果との対応が極めて見えにくい。ある主要先進国では、脱炭素化を含む産業・エネルギー構造転換について、今後約10年間に150兆円を超える官民投資を形成し、そのうち約20兆円規模を公的な先行支援によって誘導する政策規模が公表されている。
一方、同国が2050年までにCO₂排出量を直線的にnet zeroへ低下させた場合、その国単独によって回避される全球平均温暖化量を約0.006°Cとする公開試算が存在する。その計算は、年間CO₂排出量を約10億t、累積1兆t-CO₂当たりの全球平均温度応答を約0.5°Cとし、2050年までの回避累積排出量を約120億t程度とする概算によって得られている。
この試算に対して実際に提示されている批判は極めて単純である。一般的な実環境温度計測における誤差又は不確かさよりも小さい桁にある約0.006°Cの温度効果に対して、150兆円を超える規模の社会的資本を投入することになるのではないか、という費用対温度効果上の問題である。
本研究がここで扱うのは、この政策的主張の是非そのものではない。この事例が重要なのは、CO₂削減量や投資額では巨大に見える施策であっても、その効果を最終的な温度という物理量まで追跡すると、全く異なる桁の数値として現れ得ることを具体的に示しているからである。
1.7 集合行為の必要性と個々の政策手段の費用対効果は別問題である
一国単独の温度効果が小さいことに対しては、世界全体で削減すれば効果は累積するという議論が成立する。しかし、これは集合行為の必要性に関する議論であって、個別の政策手段の費用対効果を証明するものではない。
仮に100か国がそれぞれ排出削減を実施すれば、全球的な効果は一国単独より大きくなる。しかし、そこから各国が採用している発電方式、補助制度、規制、炭素価格、蓄電、CCS、CDRその他の組合せが、利用可能な代替手段の中で最小費用又は最大効果であることまでは導かれない。
したがって、「世界全体として削減する必要がある」という命題と、「ある国が特定の方法へ巨額の資源を投入することが最適である」という命題は別々に検証しなければならない。
1.8 再生可能エネルギーの大量導入は発電設備だけでは成立しない
第七の主要課題は、再生可能エネルギーへの転換に伴うsystem integrationである。太陽光及び風力は、発電設備を設置しただけで既存エネルギー系を置換できるわけではない。時間及び気象によって変動する発電量を需要へ接続するためには、送電、配電、蓄電、広域連系、需要応答、需給調整、予備力その他が必要になる。
2026年の国際的評価では、再生可能電源、大規模需要及び蓄電設備を合わせて2,500GWを超えるプロジェクトが系統接続待ちとなっており、送電網不足が新規発電、蓄電及び需要接続の重大なボトルネックとなっている。また、2030年までの電力需要へ対応するには、現在年間約4,000億米ドルである系統投資を約50%増加させる必要があり、新規送電網の計画・許認可・建設には5~15年を要する場合がある。
したがって、再生可能エネルギー設備容量の増加と、社会が必要な時刻・場所で利用できる電力供給能力の増加は同義ではない。 発電した電力を輸送できなければ利用できず、需要と発電時刻が一致しなければ蓄電又は調整が必要となり、系統容量を超えれば出力抑制が発生する。発電設備単体の価格又は容量だけでは、エネルギーシステム全体の実効性及び費用を評価できない。
1.9 脱炭素化は資源依存を消滅させるのではなく、一部を別の物質系へ移す
第八に、化石燃料依存を低減しても、物質及びエネルギーへの依存そのものが消滅するわけではない。電化、太陽光、風力、蓄電池、送電設備その他を大規模展開するためには、銅、リチウム、ニッケル、黒鉛、希土類その他の資源を大量に採掘、精製、加工、輸送し、設備へ組み込み、更新し、最終的には再資源化又は廃棄する必要がある。
したがって、脱炭素化は、化石資源の採掘・輸送・燃焼という物質フローを減少させる一方で、鉱物採掘→精製→材料製造→設備製造→輸送→建設→更新→廃棄・リサイクルという別の巨大な物質フローを形成する。 使用地点における直接CO₂排出量だけを見れば、この負荷移転を見落とす。
1.10 CCS・CDR・DACCSにも巨大な物理系が必要になる
第九に、CCS及びCDRは、CO₂という物質を「消滅」させる技術ではない。CCSでは分離、回収、圧縮、輸送、地下圧入、貯留及び長期監視が必要になる。大気中から直接CO₂を除去する方式では、希薄なCO₂を大量の空気から分離し、吸着又は吸収媒体を再生し、回収したCO₂を圧縮、輸送及び貯留しなければならない。
したがって、Gt規模のCO₂除去を想定する場合には、それと同時に、Gt規模の物質処理を成立させるエネルギー、設備、材料、土地、輸送及び貯留体系を実世界に形成する必要がある。 モデル上で一定量のCDRを設定できることと、その物理システムを実世界に構築できることは別問題である。
森林、土壌、バイオマスその他の生物系除去についても、火災、干ばつ、分解、伐採、土地利用変化等によって固定炭素が再放出されるreversalの問題が存在する。したがって、同じ1t-CO₂という単位で表現される除去であっても、その物理的性質、必要資源、貯留期間及び永続性は同一ではない。
1.11 system boundaryの設定によって成果が変わる
第十に、温暖化対策にはsystem boundaryの問題が存在する。電気自動車は使用地点では排気を生じないが、発電、送電、電池製造、鉱物採掘、精製及び廃棄は別の場所で発生する。太陽光発電設備は運転時に燃料を燃焼しないが、その設備の製造・輸送・設置・更新にはエネルギー及び物質を必要とする。空調設備は室内を冷却するが、室内から除去した熱と装置へ投入した仕事を屋外へ排出する。
すなわち、ある場所で負荷が減少したことと、より大きな物理系全体で負荷が同量消滅したことは同義ではない。 system boundaryをどこに設定するかによって、同じ技術についても評価結果は変化する。
1.12 CO₂だけを操作しても気候forcing全体を単一変数として扱うことはできない
第十一に、現実の気候系にはCO₂以外にも、メタン、亜酸化窒素、オゾン、black carbon、aerosol、水蒸気、雲、土地利用変化その他多数のforcing及びfeedbackが存在する。これらは寿命、空間分布、化学反応及び時間応答が異なり、温暖化方向へ作用するものだけでなく冷却方向へ作用するものも含まれる。
したがって、CO₂排出量を一方向へ変化させれば、関連するすべての実環境変数が同じ時間及び空間スケールで一方向へ変化するという単純な一変数系ではない。
1.13 政策入力と物理的温度出力との間に社会システムが介在する
第十二に、炭素税、補助金、排出量取引、規制等はCO₂分子又は温度へ直接作用する物理装置ではない。これらは、政策 → 価格・制度 → 企業及び消費者の行動 → 投資 → 設備更新 → エネルギー選択 → 燃料消費 → 排出 → 大気組成 → 放射強制力 → 気候応答という長い社会・物理複合経路を通じて作用する。
途中には、価格、設備寿命、国際競争、技術成熟度、資本調達、消費行動、規制設計その他多数の変数が介在する。したがって、政策予算、補助件数、設備容量等の増加を、そのまま最終的な物理状態の改善量として扱うことはできない。
1.14 目的関数の膨張によって温暖化対策そのものの費用対効果が見えにくくなる
第十三に、大規模な脱炭素政策は、温暖化抑制だけでなく、産業競争力、経済成長、エネルギー安全保障、雇用、技術開発、地域振興その他複数の政策目的を同時に包含するようになっている。複数目的を同時に追求すること自体とは別に、一つの巨大な投資体系へ目的を統合するほど、何円を何のために投入し、どの目的についてどの成果が得られたのかが判別しにくくなる。
150兆円規模の資源投入についても、気候政策として得られる温度効果、排出削減効果、産業政策効果、エネルギー安全保障効果その他を区別しなければ、投入資源と成果との対応を検証することはできない。
1.15 機会費用――同じ資源を別の方法へ投入した場合との比較が必要になる
第十四に、社会が温暖化問題へ投入できる資金、人材、材料、エネルギー及び研究能力は有限である。したがって、ある施策に効果が存在するか否かだけでなく、同じ資源を別の物理的介入へ投入した場合に、より大きな最終成果を得られないかという比較が不可欠になる。
同じ巨額資本を、送電網、原子力、蓄電、建築断熱、都市熱対策、水系、地下熱、放射制御、材料開発、熱波適応、防災、基礎科学その他へ異なる割合で投入した場合、得られる温度変化、熱ストレス低減、エネルギー需要低減その他の成果は異なる。CO₂を削減できることと、その方法が利用可能な資源の最適配分であることは別の命題である。
1.16 CO₂というproxyが最終的な実世界状態を隠す問題
以上の問題をさらに一般化すると、CO₂中心型施策にはproxy-control problemが存在する。人間が最終的に回避又は改善したい対象は、CO₂分子又はt-CO₂という数値そのものではない。高温、熱波、降水変化、海面変化、生態系損失、農業被害、人間の熱ストレスその他の実世界状態である。
CO₂排出量は、それらへ作用する重要な上流変数として制度的に管理されてきた。しかし、管理可能なproxyが政策体系の中心になるほど、「proxyを改善したこと」と「最終的な環境状態を改善したこと」が同一視される危険が大きくなる。
ここに、現在のCO₂中心型施策の根本的な限界がある。CO₂排出削減は、全球的気候軌道へ介入する一つの体系である。しかし、現在存在する限定された実世界区域について、日射、熱、放射、風、湿度、地表、材料、水、人工排熱その他を観測しながら、要求された温度状態そのものを直接形成し、維持し、逸脱後に回復させる体系ではない。
したがって、温暖化及び高温環境という実世界問題について、技術探索空間をCO₂削減だけに限定することはできない。既存のCO₂中心型施策を最終的な温度効果まで追跡したときに現れる因果距離、実装ギャップ、費用対温度効果、エネルギーシステム制約、物質資源制約、CDRの物理負荷、system boundary、複数forcing、社会実装の長い因果鎖、目的関数の膨張、機会費用及びproxy-controlという問題群を踏まえれば、最終的に改善すべき実世界の温度状態そのものを正面から目的変数として設定し、その物理的成立条件を別途研究する必要が生じる。
第2章 温度を直接低下させる巨大冷蔵庫方式と、その物理的帰結
前章では、既存の地球温暖化対策、とりわけCO₂中心型施策について、CO₂排出削減量と最終的な温度変化との間に長い因果鎖が存在すること、全球平均温度と人間が実際に生活する地域の温度状態とは空間尺度が異なること、巨額の社会的資源投入に対する最終温度効果が必ずしも明瞭ではないこと、さらにエネルギー、物質、インフラ、土地、水、時間、国際協調及びsystem boundaryを含む多数の課題が累積していることを整理した。ここから、極めて単純な次の発想が生じる。CO₂排出量という上流側の変数を長期間かけて操作するのではなく、最終的に必要なのが温度低下であるならば、対象区域そのものを直接冷却すればよいのではないか、という発想である。本章では、この最も原始的かつ直接的な発想を二つに分けて検討する。第一は、対象区域そのものを巨大な建築構造物によって覆い、その内部を既存の冷凍・空調技術によって冷却する「巨大冷蔵庫その1」である。第二は、巨大な物理的建築物を設ける代わりに、対象区域の上空又は周囲に可視的若しくは不可視的な境界又はシールドを形成し、対象区域へ作用する放射、熱、流体その他を制御する「巨大冷蔵庫その2」である。いずれも本研究において最初から否定される方式ではない。むしろ、要求された温度状態を直接形成する候補として、その成立可能性と、成立した場合に新たに発生する問題の双方を検討する必要がある。
2.1 巨大冷蔵庫その1――巨大建築構造物による直接冷却
対象区域の温度を周囲より最低5°C低下させるという要求に対し、最も容易に想定できる方法の一つは、対象区域全体を巨大な建築構造物によって覆い、その内部を大規模な冷凍・空調設備によって冷却することである。例えば対象面積が5 km²であったとしても、その区域を覆う巨大な屋根、外殻又はこれらに類する構造体を建設し、太陽放射及び外部大気との熱交換を抑制し、内部へ十分な冷却能力を導入できるのであれば、周辺環境より5°C低い温度状態を形成するという問題は、少なくとも原理上、未知の物理法則の発見を必須とするものではない。冷凍機、ヒートポンプ、熱交換器、地域冷房、蓄冷、断熱、遮熱、換気、除湿及びフィードバック制御等の既存技術を極めて大規模に統合する問題として考えることができる。
この方式には明確な利点がある。第一に、温度を直接操作できる。CO₂排出削減のように、排出量、大気中濃度、放射強制、地球系エネルギー収支及び気候応答という長い因果鎖を経由するのではなく、対象区域から直接熱を除去するため、十分な設備能力があれば比較的短い時間尺度で要求温度へ接近できる。第二に、既存技術の延長として設計できる。必要冷却負荷、断熱性能、日射負荷、内部発熱、外気交換量、冷凍機能力等を設定し、要求性能から設備規模を逆算するという既存の熱工学的設計手法を利用できる。第三に、制御対象と境界を比較的明確に設定できる。したがって、巨大で高価であることのみを理由として、この方式を研究上の候補から排除する理由はない。仮に巨大建築構造物による直接冷却が、安全性、費用、耐久性、エネルギー供給及び環境負荷を含めて他方式より優れているのであれば、それ自体が有効な解となり得る。
しかし、この方式を数km²規模へ拡大した場合、冷却そのものとは別の巨大な問題が発生する。冷却によって対象区域から取り出された熱は消滅しない。冷凍機又はヒートポンプを用いる場合、低温側から除去された熱に、冷却装置を作動させるために投入した仕事に相当するエネルギーが加わり、高温側から放出される。したがって、5 km²の区域を継続的に5°C低く維持するために巨大な熱量を除去するのであれば、その成功と同時に、対象区域外ではそれ以上の熱量を処理する問題が発生する。
ここで「区域外」又は「周辺」という言葉を曖昧に用いることはできない。排熱の影響範囲は、冷却区域から何kmという固定距離によって決まるものではなく、排出熱量、排熱温度、排出高度、風速、風向、大気安定度、混合層高度、湿度、地形、海陸配置、時間帯及び季節等によって変化する。大気へ大量の熱を放出すれば、その熱は移流及び乱流混合によって輸送される。水系へ移せば河川、湖沼、海洋等の水温及び熱輸送の問題へ変わる。地下へ移せば地下への蓄熱と長期的温度変化の問題となる。蓄熱設備へ移せば一時的に問題を時間方向へ移すことはできるが、蓄熱容量には限界があり、最終的な熱の処理先が必要になる。
したがって、巨大冷蔵庫その1を成立させた場合には、「対象区域を5°C低下させる研究」とは別に、「対象区域から継続的に除去される巨大熱流をどのように処理するか」という独立した研究課題が成立する。排熱を発電、産業熱、化学反応その他へ利用することも考えられるが、熱を有用な仕事又は他のエネルギー形態へ100%変換することはできず、変換後にも最終的な熱が残る。また、化学エネルギー等として一時的に保存できたとしても、それを最終的に使用すれば、多くの場合そのエネルギーは再び熱へ戻る。したがって、エネルギー利用は重要な中間処理となり得るものの、それだけによって地球系から熱が消滅するわけではない。
この問題をさらに外側へ追跡すると、system boundaryの問題が現れる。対象区域Aから熱を除去して区域Bへ放出し、Bの温度上昇が問題となったためBからCへ熱を移し、さらにCからDへ移すという処理を繰り返した場合、各区域では一時的な問題解決が成立しても、地球内部で熱の所在地を変更し続けているにすぎない可能性がある。しかも各段階で機械的な冷却又は輸送を行えば、そのために投入された仕事も最終的には熱へ転化する。したがって、対象区域の温度低下だけを評価して巨大冷蔵庫方式の全体的な有効性を判断することはできない。
この論理を地球規模まで拡張すると、問題はさらに明確になる。地球内部に存在する大気、海洋、河川、地下、岩石、建築物又は人工的蓄熱体へ熱を移動させる方法は、熱の時間的又は空間的再配置として有効であっても、それ自体では地球系全体からエネルギーを除去することにはならない。ある地域の熱問題を別地域へ移し、その地域の熱をさらに別の場所へ移すだけであれば、最終的には熱負荷の空間転嫁が連続する「いたちごっこ」となり得る。この連鎖を閉じるためには、熱の再利用、変換、輸送及び蓄積だけでなく、そのエネルギーが最終的にどこへ到達するのかまで追跡しなければならない。
地球は太陽から放射エネルギーを受け取り、同時に主として赤外放射によって宇宙へエネルギーを放出している。したがって、system boundaryを地球全体まで拡大した場合、地球内部での熱移送だけではなく、最終的には地球―宇宙間のエネルギー交換まで問題に含まれる。巨大冷蔵庫その1の検討は、この意味で単なる巨大空調設備の設計問題では終わらない。対象区域の冷却に成功した後、その反作用として発生した巨大熱流をどのreservoirへ移し、どの程度利用又は蓄積し、残余をどの経路によって処理し、最終的に地球系全体のエネルギー収支をどのように成立させるかという、別の大規模な研究問題へ接続する。
したがって、巨大冷蔵庫その1について導かれる結論は、「巨大建築物による冷却は成立しない」ではない。十分な建築構造、冷却設備及びエネルギー供給が存在すれば、対象区域の温度を直接低下させる有力かつ即効性のある方法となり得る。しかし、その方式が大規模に成功するほど、除去熱と投入仕事に由来する巨大な熱流を対象区域外で処理する必要が生じる。その処理を周辺への単純な排熱によって行えば、冷却区域の問題を別区域の熱問題へ転嫁する可能性があり、さらにその外側まで処理対象を拡大すれば、最終的には地球系全体のエネルギー収支へ到達する。したがって、巨大冷蔵庫その1は、それ自体が一つの解となり得ると同時に、「大規模区域冷却に伴って生じる巨大熱流を、地球系全体の中でどのように処理するか」という独立した研究テーマを必然的に発生させる。
2.2 巨大冷蔵庫その2――可視的又は不可視的シールドによる直接的環境制御
巨大な建築構造物を建設して区域全体を覆うという発想に続いて、さらに自然に考えられるのは、建築物そのものを形成することなく、対象区域の上空又は周囲に何らかの可視的若しくは不可視的なシールドを形成し、区域へ作用するエネルギー又は物質の流れを制御する方法である。概念上は、膜、薄膜、浮遊体、粒子層その他の物質的シールドから、電磁場、荷電粒子、プラズマその他を利用する場的な境界まで、多様な候補を想定することができる。ただし、これらは技術成熟度が大きく異なり、既存技術として成立しているものと、物理的成立条件そのものが未解明なものとを明確に区別して検討する必要がある。
この方式の第一の問題は、シールドが具体的に何を制御するのかである。太陽短波放射を反射又は遮蔽するのか、特定波長だけを選択的に制御するのか、地表及び大気から放出される長波放射を透過させるのか、外気の流入を変化させるのか、水蒸気、エアロゾルその他の物質輸送まで制御するのかによって、必要となる物理機構は全く異なる。太陽放射の流入を減少させれば冷却方向の効果を得られる一方、地表から宇宙へ向かう長波放射まで阻害すれば熱を保持する方向へ作用し得る。したがって、「シールドによって何かを遮れば温度が下がる」という単純な問題ではなく、波長、方向、時間、空間及び物質輸送を含む収支を評価する必要がある。
第二に、シールドが作用を与える以上、シールド自身も反作用を受ける。太陽放射を反射する場合には放射圧による運動量交換があり、吸収する場合にはシールド自身が加熱され、その熱を別の経路によって放出しなければならない。大気流を偏向する場合には運動量交換が生じ、物質粒子を用いる場合には粒子自身の運動、衝突、凝集、拡散及び沈降を考慮する必要がある。したがって、対象区域への作用だけを抽出し、その作用を発生させたシールド側のエネルギー及び運動量収支を無視することはできない。
第三に、重力場におけるシールドの保持という問題がある。物質的な膜、粒子、浮遊構造その他を大気中へ配置する場合、それらは地球重力場の中に存在するため、所定位置を維持するための支持、張力、浮力、揚力その他の力学的機構が必要となる。粒子を利用する場合には重力沈降だけでなく、風、乱流、凝集、降水洗浄等によって空間分布が変化する。したがって、「対象区域上空にシールドを形成する」という概念だけでは成立せず、そのシールドをどの高度、どの形状、どの密度で、どの程度の時間維持できるかを重力及び流体力学を含めて解かなければならない。
第四に、地球は回転する天体であり、その大気も静止していない。地表に固定された建築構造物とは異なり、自由大気中に形成されたシールドは風及び大気循環との相対運動を受ける。大規模化すれば、地球自転に伴う回転効果、大気循環、緯度、高度、季節変化等も無視できない。したがって、地表から見て同じ場所にシールドを維持すること自体が、独立した力学的問題となる。
第五に、シールドをさらに高高度又は大気圏外へ配置する場合には、問題は宇宙物理及び天体力学へ拡張する。地球重力、太陽重力、軌道運動、太陽放射圧、地球の自転及び公転、月その他の天体による摂動等を考慮しなければ、構造又は物質を所望の位置へ維持できるかを判断できない。ここでは宇宙物理又は重力は研究テーマを大きく見せるために付加されるものではなく、シールドが物理的にどこに存在し、どのような運動をし、どのような外力を受けるのかを決定する境界条件そのものとなる。
第六に、シールドによって遮蔽、反射、吸収又は偏向されたエネルギー及び物質の行方を追跡しなければならない。太陽放射を反射すれば、その放射エネルギーは消滅するのではなく別方向へ伝播する。吸収すればシールドが加熱され、そのエネルギーを再放射その他によって処理する必要がある。大気流を偏向すれば、その大気は消滅せず別区域へ移動する。水蒸気又は粒子輸送を変化させれば、その結果は別の場所における湿度、雲、降水又は放射状態として現れ得る。したがって、シールド直下の温度低下だけを成果として評価することはできず、操作されたエネルギー、物質及び運動量が対象区域外でどのような状態を形成するのかまで追跡する必要がある。
第七に、そして安全性上極めて重大なのは、シールドによって要求された温度低下を実現すること自体が、新たな大気状態を形成することである。広域の放射収支を変更し、対象区域を周辺より数°C低下させれば、その境界には人工的な温度勾配が形成される。温度差は空気密度、浮力及び圧力場を変化させ、それによって風、対流及び乱流が変化する。さらに大気中の水蒸気が関与すれば、蒸発、凝結、潜熱放出、雲形成及び降水が結合する。形成された風及び水蒸気輸送の変化は再び温度及び放射状態を変化させるため、シールドによる冷却は一方向の静的過程ではなく、大気―地表―水循環との非線形フィードバックを伴う動的過程となる。
この問題を「周辺気象への若干の影響」として扱うことはできない。大規模かつ急峻な人工温度勾配、圧力勾配及び水蒸気分布の変化が、既存の大気不安定性、海洋、地形、風系及び地球自転に伴う回転効果と非線形に結合した場合、巨大なハリケーン若しくはこれに類する熱帯低気圧、超大型暴風、極端な集中豪雨及び洪水、長期間継続する異常降水、広域的な干ばつ、モンスーンその他の大規模循環の変位、異常高温若しくは異常低温、農業地域への水蒸気輸送の変化その他、人類社会に致命的な損害を与え得る破局的気象・水循環事象が形成又は増幅される危険性は排除できない。
さらに、これらの影響がシールド直下又はその直近だけに限定される保証はない。大気は連続した回転流体系であり、熱、運動量、水蒸気及び圧力擾乱は対象区域の境界を越えて輸送される。介入面積、温度差、温度勾配、位置、高度、季節、海面温度、湿度、成層状態、既存の風系及び鉛直シア等の条件が変われば、同じシールドであっても形成される大気応答は異なる。介入規模を都市から地域、大陸へ拡張した場合には、問題そのものが局所的な遮熱又は冷却から、大気大循環及び地球システムへ人工的な境界条件を挿入する問題へ変化する。
したがって、巨大冷蔵庫その2についても、「シールドによって5°C低下させられるか」だけでは成立性を判断できない。シールドそのものの物理的形成及び維持、必要エネルギー、重力場における保持、地球自転及び大気循環との関係、反射・吸収・偏向されたエネルギー及び物質の行方、周辺地域への影響、さらに人工的な温度・圧力・水蒸気場から破局的気象状態が形成されない条件まで同時に明らかにする必要がある。要求された温度低下を達成しても、その結果として巨大ハリケーン、超大型暴風、洪水、干ばつその他の破局的状態を形成するのであれば、それは全体系としての解にはならない。
2.3 二つの巨大冷蔵庫方式から導かれる問題
以上の二方式は、いずれも単純に否定されるべきものではない。巨大建築構造物による直接冷却が最も確実かつ経済合理性の高い方法であるなら、それを採用することは合理的である。また、可視的又は不可視的なシールドによって、より少ない資源及びエネルギーで安全に要求温度を形成できるのであれば、それも有力な解となる。本研究がこれらを検討する目的は、あらかじめ特定の新技術を正解とするためではなく、最低5°Cという具体的な要求状態から出発し、最も単純な既存技術又は自然に想定される方法を順番に適用した場合、どこまで問題を解くことができ、その先にどのような未解決問題が残るのかを明らかにすることにある。
巨大冷蔵庫その1を追跡すると、直接冷却によって対象区域の温度を下げることは可能であっても、除去された巨大熱量と冷却に投入した仕事を対象区域外で処理する必要が生じる。排熱先をさらに冷却すれば、その熱をさらに外側へ移さなければならず、地球内部で熱を移動させ続けるだけでは、熱負荷の空間転嫁が連続する可能性がある。この問題を最後まで追跡すれば、対象区域の冷却から、周辺地域、さらに大気、水系、地下その他のreservoirを経て、最終的には地球系全体のエネルギー収支及び地球―宇宙間のエネルギー交換へ到達する。
一方、巨大冷蔵庫その2を追跡すると、区域へ入るエネルギー又は物質をシールドによって制御することは、排熱そのものを減少させる可能性を有する一方、そのシールド自身の維持、重力及び運動量収支、地球自転及び軌道運動との関係、反射・吸収・偏向されたエネルギー及び物質の行方、さらに人工的に形成された温度・圧力・水蒸気場が新たな大気循環を形成する問題へ到達する。極端な場合には、巨大ハリケーン、超大型暴風、極端豪雨、洪水、広域干ばつその他、人類社会に致命的な損害を与え得る破局的状態を誘発又は増幅する危険性まで排除できない。
この二つの検討が示すのは、単に「巨大冷蔵庫では不十分である」という結論ではない。むしろ逆である。温度を直接5°C下げるという具体的な要求を設定すると、最も原始的な直接冷却から出発しただけでも、熱をどこへ移すのか、移した熱をさらにどう処理するのか、最終的なエネルギー収支をどこで閉じるのかという問題が生じる。また、熱の流入そのものをシールドによって制御しようとすれば、放射、物質、運動量、重力、大気循環及び地球―宇宙系との関係が問題となり、さらに介入によって新たに形成された温度状態それ自体が、次の大気状態を生成するという非線形な反作用が生じる。
したがって、最低5°Cの温度低下を単なる「冷却能力」の問題として扱うことはできない。対象区域で要求状態を形成できるかだけでなく、その形成によって区域外へ移送された熱、放射、物質及び運動量がどこへ到達するのか、その作用がさらに外側の環境をどのように変化させるのか、その変化をさらに処理した場合に何が生じるのかを追跡する必要がある。system boundaryを外側へ拡張し続ければ、最終的には地球内部の熱・物質・流体輸送だけでなく、地球全体のエネルギー収支及び宇宙とのエネルギー交換まで含めなければ問題が閉じない。
このことが、本研究が単一のCO₂削減技術、単一の冷凍技術、単一の遮熱技術又は単一のシールド技術の改良だけを研究対象としない理由である。要求された最低5°Cの温度状態を実世界で形成し、その状態を維持し、外乱によって失われた場合には回復させ、同時にその介入によって別の地域又は地球系全体へ同等以上の問題を転嫁しないためには、個々の装置の性能だけではなく、その装置が接続されるより大きな物理系まで追跡して成立条件を検討する必要がある。巨大冷蔵庫その1及びその2は、その必要性を具体的に示す最初の二つの基準解である。
第3章 背景技術
3.1 既存の温暖化・高温環境対策と直接的温度状態形成との技術的差異
地球温暖化及びこれに伴う高温環境への対応として、これまで温室効果ガス排出削減、エネルギー効率向上、再生可能エネルギー利用、炭素回収・固定、都市緑化、高反射材料、建築物の熱設計、蒸発冷却、放射冷却その他、多数の研究及び技術開発が進められてきた。しかし、これらは同一の物理問題を解いているわけではない。温室効果ガス排出削減は、主として将来の大気組成、放射強制及び全球的気候軌道へ介入する。一方、都市緑化、高反射材料、蒸発冷却、放射冷却、建築空調等は、より限定された空間について、表面温度、大気温度、放射温度、熱流束、人体熱負荷その他へ直接作用する。すなわち、既存技術群は、目的変数、空間尺度、時間尺度及び操作対象が異なる複数の技術体系から構成されている。
本研究が要求する最低5°Cの温度低下は、将来の全球平均気温上昇を何°C抑制するかという問題そのものではなく、限定された大規模実環境において、対応する非介入状態より明確に低い温度状態を現実に形成し、その状態を維持し、外乱によって逸脱した場合にも回復可能とする物理条件を解明する問題である。したがって、既存の温暖化対策を否定することが研究目的ではない。既存施策が主として扱ってきた問題とは別に、温度状態そのものを直接的な要求状態として設定した場合、どのような物理系が成立し得るのかを研究対象とする。
3.2 巨大建築構造物による直接冷却と巨大排熱処理問題
温度そのものを直接低下させる最も原始的かつ即効性の高い方法として、対象区域を巨大な建築構造物によって覆い、その内部を大規模な冷凍・空調設備によって冷却する方法が考えられる。仮に数km²規模の対象区域について巨大な屋根、外殻又はこれらに類する構造を形成し、太陽放射及び外部大気との熱交換を抑制し、内部へ十分な冷却能力を導入することができれば、周囲環境より最低5°C低い温度状態を形成すること自体は、未知の物理法則を必須とする問題ではない。冷凍機、ヒートポンプ、熱交換器、地域冷房、蓄冷、断熱、遮熱、換気、除湿及びフィードバック制御等の既存技術を巨大化・統合する工学問題として検討することができる。
したがって、本研究はこの方法を排除しない。建設費、設備規模、運転エネルギー、安全性、耐久性その他を含めて最も合理的な方法であるならば、それ自体が解となり得る。しかし、この方式が大規模に成功するほど、別の巨大な物理問題が発生する。冷却によって対象区域から取り出した熱は消滅せず、冷凍機又はヒートポンプを使用する場合には、除去熱に冷却装置へ投入した仕事に相当するエネルギーが加わって高温側へ放出される。そのため、対象区域の最低5°C低下を維持するために巨大な熱量を継続的に除去すれば、その熱量以上のエネルギーを対象区域外で継続的に処理しなければならない。
このとき、「周辺へ排熱する」という説明だけでは問題は閉じない。大気へ放出すれば、その熱は風、移流及び乱流によって別区域へ輸送される。水系へ移送すれば河川、湖沼又は海洋の熱状態が変化する。地下へ移送すれば地下蓄熱及び長期的温度上昇の問題となる。蓄熱設備へ移せば時間的猶予は得られるが、最終的な処理先は残る。熱を発電、産業熱又は化学エネルギーへ変換することも可能であるが、熱を100%有用仕事へ変換することはできず、変換及び利用を経ても最終的な熱は残る。
この問題をsystem boundaryの外側へ追跡すると、対象区域AからBへ、BからCへ、CからDへと熱を移し続けるだけでは、地球内部における熱負荷の空間転嫁となる可能性がある。さらに各移送段階で仕事を投入すれば、その仕事も最終的に熱へ転化する。したがって、大規模区域冷却の成立性を対象区域の温度低下だけで評価することはできない。どのreservoirへ熱を移し、どの程度を再利用し、どの程度を蓄積し、残余をどの経路によって最終処理するのかまで追跡する必要がある。
この論理を地球全体まで拡張すれば、地球内部の大気、地下、水系、人工蓄熱体その他へ熱を移動させることだけでは最終的な解にならない。地球は太陽から放射エネルギーを受け取り、主として赤外放射によって宇宙へエネルギーを放出している。したがって、巨大直接冷却を極限まで追跡した場合、最終的には地球系全体のエネルギー収支及び地球―宇宙間のエネルギー交換へ問題が接続される。このことは巨大建築物方式が不成立であることを意味しない。むしろ、その方式が有力な直接解となり得る一方、その成功によって「巨大熱流を地球系全体の中でどのように処理するか」という別の研究テーマが必然的に発生することを意味する。
3.3 可視的又は不可視的シールドによる境界形成と、その物理的危険
巨大建築物による閉鎖・半閉鎖環境の形成とは別に、対象区域の上空又は周囲に可視的若しくは不可視的なシールドを形成し、区域へ入射する放射、熱、流体又は物質の流れそのものを制御する方法も自然に考えられる。概念上は膜、薄膜、浮遊構造、粒子層その他の物質的シールドから、電磁場、荷電粒子、プラズマその他を利用する場的境界まで多様な候補が存在し得る。ただし、既存技術として成立しているもの、物理的には考察可能であるもの、成立条件自体が未解明なものを明確に区別する必要がある。
第一に、何を遮蔽又は制御するかによって問題は全く異なる。太陽短波放射のみを反射するのか、特定波長を選択的に制御するのか、地表から宇宙へ放射される長波放射を透過させるのか、大気流、水蒸気、エアロゾル又はその他の物質輸送まで変更するのかによって必要な物理機構は異なる。太陽放射を減少させれば冷却方向へ作用し得る一方、地表からの長波放射まで抑制すれば、逆に熱を閉じ込めることがある。
第二に、シールドがエネルギー又は運動量へ作用する以上、シールド自身も反作用を受ける。放射を反射すれば運動量交換が生じ、吸収すればシールド自身が加熱される。流体を偏向すれば大気との運動量交換が発生する。粒子を利用する場合には、粒子の拡散、衝突、凝集、沈降及び降水による除去等を考慮する必要がある。
第三に、シールドを地球重力場の中でどのように保持するかという問題がある。物質的な膜、粒子層、浮遊体その他は自重を持ち、所定高度及び所定位置へ維持するための支持、張力、浮力、揚力その他の力学的機構を必要とする。自由大気中では風及び乱流も作用するため、単に「空中へ設置する」と定義するだけでは成立しない。
第四に、地球は回転しており、大気も静止していない。地表固定構造ではないシールドを形成する場合、地球自転、大気循環、緯度、高度、季節及び時間によって変化する外力及び相対運動を考慮しなければならない。さらにシールドを高高度又は大気圏外へ配置する場合には、地球重力、太陽重力、軌道運動、太陽放射圧、地球の自転及び公転、月その他の天体による摂動等が成立条件となる。この場合、重力及び宇宙物理は研究対象を大きく見せるために付加されるのではなく、シールドが所望位置へ存在し続けられるかを規定する基礎条件となる。
第五に、反射、吸収、偏向又は遮蔽されたエネルギー、物質及び運動量の行方を追跡しなければならない。反射された太陽放射は消滅せず別方向へ進み、吸収された放射はシールド自身の熱となり、偏向された大気は別区域へ移動する。したがって、対象区域直下の温度低下だけを成果とみなすことはできない。
さらに重大なのは、シールドによって最低5°Cという要求状態を形成すること自体が新たな大気状態を発生させることである。対象区域が周囲より数°C低下すれば、人工的な温度勾配が形成される。温度差は密度、浮力及び圧力場を変化させ、風、対流及び乱流を変化させる。水蒸気が存在すれば、蒸発、凝結、潜熱放出、雲形成及び降水も変化する。さらにその流体及び水循環変化が再び温度及び放射場を変化させるため、シールドによる冷却は一方向の静的な遮熱問題ではなく、非線形な大気―地表―水循環フィードバック問題となる。
この危険を「周辺気象へ影響する可能性がある」という抽象的表現で処理することはできない。大規模かつ急峻な人工温度勾配、圧力勾配、水蒸気分布及び放射場の変化が、既存の大気不安定性、海洋、地形、風系及び地球自転に伴う回転効果と非線形に結合した場合、巨大なハリケーン若しくはこれに類する熱帯低気圧、超大型暴風、極端な集中豪雨及び洪水、長期間継続する異常降水、広域干ばつ、モンスーンその他の大規模循環の変位、異常高温若しくは異常低温、農業地域への水蒸気輸送の変化その他、人類社会に致命的な損害を与え得る破局的気象・水循環事象が形成又は増幅される危険性は排除できない。
したがって、シールド方式の安全性は「最低5°C低下を達成したか」だけでは評価できない。シールドの形成及び維持、重力下での保持、エネルギー及び運動量収支、地球自転及び大気循環との関係、作用を受けた放射・熱・物質の行方、さらに人工温度状態によって生成される二次的・高次的な大気状態が破局領域へ遷移しない条件まで同時に扱う必要がある。
3.4 放射冷却によるsub-ambient stateの形成
外部環境下において周囲大気温度より低い状態を形成する既存研究として、放射冷却は特に重要である。物体が赤外放射によって熱を外部へ放出する現象自体は古くから知られているが、日中には太陽放射吸収が冷却を阻害するため、強い日射下で周囲大気温度を下回る状態を形成することは重要な技術課題であった。
2014年には、太陽光を高率で反射すると同時に、大気透過窓に対応する赤外波長領域で選択的に熱放射を行う多層photonic structureを用い、850 W/m²を超える直接日射下で冷却体を周囲大気温度より4.9°C低い状態へ冷却し、周囲温度条件で40.1 W/m²の冷却能力を示す実験が報告された。この成果は、強い外部エネルギー入力が存在する環境でも、放射スペクトル及びエネルギー放出経路を設計することによりsub-ambient stateを形成できることを示している。
重要なのは、放射冷却が地球上の対象物から大気透過窓を介して宇宙へエネルギーを放出する経路を利用していることである。すなわち、対象区域内又は周辺だけをthermal sinkとする必要がないことを、既存技術がすでに示している。一方、材料表面又は冷却体で約5°Cのsub-ambient stateを形成できることと、限定された大規模実環境全体に最低5°C低い温度状態を形成することは同一ではない。材料表面から大気、地表、水系、建築物その他へどのように熱・放射・物質輸送が接続されるかを別途解かなければならない。
3.5 複数物理過程を利用するHybrid Cooling
単一の冷却機構だけではなく、放射、蒸発、吸着・脱着、水分輸送、潜熱、熱伝導等を複合したHybrid Coolingも研究されている。例えばhydrogel等を利用し、大気中水分の吸収・放出、蒸発潜熱及び放射冷却を同一系で利用する方法では、複数のエネルギー輸送経路を一つの冷却系へ統合することが試みられている。
しかし、異なる冷却効果を単純に加算すれば大きな温度低下が得られるとは限らない。蒸発量を増加させれば潜熱輸送は増えるが湿度も変化し、その湿度変化が放射冷却性能や人体熱環境を変える。日射遮蔽、蒸発、表面放射、流体運動及び材料状態は相互に独立ではない。したがって、複数の既存技術を並列的に追加することではなく、各物理作用が同一の状態形成過程で相乗、競合、相殺及びfeedbackをどのように形成するかを扱う必要がある。
3.6 都市・地域スケールで既に形成されている数°C級の温度差
都市及び地域スケールでは、植生、樹木、緑地、水体、高反射材料、建築形態、street canyon、sky-view factor、日射遮蔽、蒸発散等を利用した熱環境制御について多数の研究が存在する。また、人間は意図的又は非意図的に、都市化、舗装、建築物、土地利用変更、人工排熱、植生及び水系の変更等を通じて、既に現実の開放環境へ数°C規模の温度偏差を形成している。
これは本研究にとって重要な背景である。すなわち、開放環境の温度が人為的な物質配置、土地利用、放射特性、蓄熱、蒸発散、風路及び人工排熱等によって数°C単位で変化すること自体は、未知の現象ではない。一方、既存研究で報告される「温度低下」は、地表面温度、land surface temperature、建築物表面温度、局所大気温度、pedestrian-level air temperature、mean radiant temperature、人体熱快適性指標等が混在している。したがって、それらをそのまま本研究の最低5°C要求と同一視することはできない。
3.7 Thermal Metamaterialsと熱流経路の設計
近年の熱物理では、熱を除去、蓄積又は遮断するだけでなく、熱流の経路自体を設計する研究が発展している。Transformation thermotics及びthermal metamaterialsでは、異方的又は空間的に変化する実効熱伝導特性等を利用し、熱流を集中、迂回、回転、分岐又は遮蔽することが研究されている。
この研究領域が示しているのは、heat-flow topologyを所与の条件として受け入れる必要がないということである。材料構造及び空間配置を変化させることによって、熱がどこを通り、どこへ到達するかを設計対象とすることができる。一方、既存研究の主要対象は固体内部又は比較的小規模なthermal fieldであり、大規模実環境では伝導だけでなく、移流、乱流、放射、水分輸送、相変化及び重力が同時に作用する。したがって、熱流経路設計の概念を、熱だけでなく放射、物質及び運動量を含む複数輸送経路の構成問題へ拡張する必要がある。
3.8 動的材料、相及び界面を利用した物理状態制御
温度状態へ作用可能な自由度は、熱伝導及び放射だけではない。相変化材料はlatent heatによって熱エネルギーを蓄積・放出でき、caloric materialsは電場、磁場、応力又は圧力等の外場によってentropy及びtemperatureを変化させることができる。hydrogel、responsive polymer、液晶その他のsoft matterでは、温度、湿度、光、電場、磁場又は機械的作用等に応じて形状、含水状態、光学特性、熱輸送特性及び界面状態を変化させることができる。nanophotonics及びmetasurfacesでは、反射、吸収、透過、放射率及び方向性等を構造的に設計できる。
この進展が示すのは、対象区域を構成する物質を固定された受動的substrateとして扱う必要がないことである。材料物性、相状態、界面状態、熱伝導率、放射率、反射率、透過率、含水状態その他が時間的・空間的に変化可能であれば、温度状態を形成している構成則、輸送条件及び境界条件そのものを動的に変更できる。
3.9 人工温度状態と大気境界層における非線形feedback
大規模実環境では、最低5°Cという温度状態を形成すること自体が、次の物理状態を変化させる。温度差は密度差、浮力及び圧力場を変化させ、新たな風及び流体運動を形成し得る。風が変化すれば、熱、物質、水蒸気及び運動量輸送が変化する。水蒸気輸送が変化すれば蒸発、凝結、雲及び降水が変化し、それが再び放射及び温度場へ作用する。
したがって、最低5°C低温状態は単なる最終outputではなく、その後の物理系にとって新しいinputでもある。このため、Formationだけを評価することはできず、その状態が自ら生成した新しい境界条件の下でPersistenceを有するか、外乱又は内部feedbackによって逸脱した場合にRecoveryできるかまで扱う必要がある。さらに、人工的な温度勾配が破局的気象状態への遷移を誘発しない条件を同時に求めなければならない。
3.10 地表・地下・水系・大気から地球―宇宙まで連続するsystem boundary
対象区域の温度状態は地表近傍だけで閉じていない。下方では地表、地下、水系及び人工構造物と熱及び物質を交換し、側方及び上方では周囲大気、大気境界層及び上層大気と相互作用する。また、太陽から短波放射を受け取り、地表及び大気から長波放射としてエネルギーを放出し、その一部は大気透過窓を介して地球外空間へ到達する。
重力は大気の静水圧構造、密度成層、浮力、対流、水系運動及び位置エネルギーを規定する。地球自転は大規模流体運動へ作用し、地球の公転及び地軸の傾きは太陽放射条件の時間変化を規定する。高高度又は宇宙空間を利用する技術では、さらに軌道及び天体力学が問題となる。
したがって、本研究のsystem boundaryを対象区域の外周だけに固定することはできない。介入によって移送された熱、放射、物質及び運動量を追跡すると、必要に応じて地表、地下、水系、周囲大気、上層大気及び地球外空間まで境界を拡張しなければならない。
3.11 古典物理から量子・材料物理までの階層接続
本研究に関係する物理現象の全てが未知なのではない。熱力学、非平衡物理、流体力学、大気科学、放射物理、材料科学、物性物理、界面科学、地球物理及び宇宙物理には、それぞれ巨大な研究蓄積が存在する。巨視的な温度、圧力、流体、熱及び放射場は古典熱力学、非平衡熱力学、連続体力学、流体力学及び放射輸送等によって扱われる。一方、それらの巨視的状態を形成する材料の電子状態、phonon輸送、相転移、界面相互作用及び光学応答は、統計力学、固体物理、物性物理及び量子論へ接続される。
量子論を本研究へ導入する意味は、先端用語を追加することではない。電子・phonon輸送、光学応答、相及び界面状態その他の微視的自由度が、熱伝導率、放射率、反射率、透過率、吸収特性、相転移及び輸送特性等の巨視的物性を形成し、それがさらに大規模な熱・放射・物質輸送へ接続される場合、その階層間接続を一つの連続した物理問題として扱う必要がある。quantum metric、entanglement structure、coherence、non-Hermitian state、protected stateその他についても、本研究の要求状態へ具体的に接続可能な場合には検討対象となるが、その接続が確認されていないものを単に列挙することは本研究の目的ではない。
3.12 固定された装置から、状態・境界・経路が変化する物理系への拡張
既存技術の多くは、所与の材料、表面、装置及び環境条件の下で、冷却能力、熱流束、温度差、熱伝導率、放射率その他を評価している。しかし、本研究が対象とする物理系では、材料物性、相状態、界面状態、熱輸送経路、物質輸送経路、放射経路、流体経路及び実効的境界条件そのものが時間とともに変化し得る。
したがって、問題は「現在何Wの熱を除去できるか」に限定されない。現在状態から次にどの物理状態が成立可能か、どの状態遷移が最低5°C低温状態へ向かうのか、どの状態遷移が高温化又は破局的状態へ向かうのか、ある状態を形成したことによって将来利用可能なthermal sink、材料状態、輸送経路又は回復経路が失われないかまで扱う必要がある。
この意味で、本研究対象は、固定装置へ外乱を入力し、その出力温度を測定するだけの系ではない。物質、相、界面、輸送経路、境界条件及び利用可能な状態遷移そのものが時間発展し、その変化が次に成立可能な物理状態を再び変更する動的非平衡開放系である。
3.13 既存科学の到達点と、なお統合されていない中心問題
既存科学はすでに、sub-ambient radiative cooling、放射スペクトル及び方向制御、蒸発及び水分輸送を利用したHybrid Cooling、thermal metamaterialsによるheat-flow manipulation、相変化及び動的材料、界面物性制御、都市及び地域スケールでの熱環境制御その他、多数の有力な物理作用を確立又は提示している。また、巨大建築物を形成して既存冷却技術を適用するという最も原始的な解も、原理上は候補として成立する。
したがって、本研究の未解決領域は「温度を下げる方法が一つも知られていない」ということではない。問題は、これらの異なる作用を最低5°Cという一つの要求状態へ接続し、その状態を形成した後に生じる熱、放射、物質、運動量及び大気循環の反作用まで含め、より大きなsystem boundaryにおいても成立する一つの物理系へ収束させる方法が確立されていないことである。
特に、局所的な成功がより大きな物理系における失敗を生じさせる可能性を無視できない。巨大直接冷却によって一区域を5°C低下させても、その排熱が別区域の熱問題を形成すればsystem boundaryを拡張した評価が必要になる。シールドによって日射を制御して5°C低下させても、その人工温度場が巨大ハリケーン、超大型暴風、豪雨、洪水、干ばつその他の破局的状態を形成又は増幅する危険性を排除できなければ、全体系としての解にはならない。
したがって、中心的未解決問題は、最低5°C低温状態へ至る物理作用を単純に集めることではない。どの状態を成立可能とし、どの状態遷移を選択し、どの状態遷移を抑制し、どの熱・放射・物質・運動量経路を形成し、どの境界条件を変化させ、どの破局的遷移を回避し、形成された状態を維持し、逸脱後にも回復可能とするかという、時間発展する結合非平衡開放系の構成問題である。
3.14 本研究主体が有する領域横断的理論体系と本研究への適用基盤
現代科学は高度な専門分化によって発展してきた。その結果、熱力学、流体、大気、材料、量子、界面、地球及び宇宙等、それぞれの領域には高度な専門知識が蓄積されている。一方、本研究が要求するのは、それらを単純に横へ並べることではなく、最低5°Cという単一の実世界要求に対して、異なる物理階層から必要な自由度を選択し、その階層間接続を構成し、一つの物理状態形成系へ収束させることである。
本研究主体においては、異なる物理・情報・材料・知能・実行系を、状態、境界、実行可能性、状態遷移、維持、回復及び連続性等の共通構造から取り扱うKen理論™(Ken Theory)が既に体系化され、その理論及び技術体系に関する340本を超える技術論文が公開されている。同理論体系では、物理的又は数学的に想定可能な全状態を等価に扱うのではなく、現在状態及び境界条件の下でどの状態が成立可能か、どの状態遷移を成立させるか、どの状態遷移を排除するか、成立した状態をどのように維持するか、逸脱後にどの経路から回復するか、さらに将来利用可能な状態及び回復経路をどのように保持するかを共通構造として扱っている。
その適用対象は情報処理上の抽象状態に限定されず、量子状態、材料状態、相状態、界面状態、物質構造、輸送経路及び巨視的物理状態を含む。したがって、本研究では、既存科学によってすでに明らかにされている物理法則、作用及び技術的自由度を新たに発見し直すことではなく、それらの中から最低5°C低温状態の形成・維持・回復に必要な作用を抽出し、異なる物理階層間の接続を構成し、一つの現実の物理系へ収束させることが技術的統合の中心となる。
以上から、本研究が扱う背景技術上の中心問題は、単なる強力な冷却装置の開発でも、既存技術の大型化でも、既存技術を多数並列配置することでもない。限定された大規模実環境において、熱、放射、流体、物質、相、界面、材料、地表、地下、水系、重力、大気、地球及び宇宙へ連続する物理系の中から、要求された最低5°C低温状態を成立させる状態及び経路を選択・形成し、同時に高温化又は破局的状態へ向かう遷移を抑制し、その状態のPersistence、Recoverability及びContinuityを成立させる一つの結合非平衡開放系へ収束させることである。
第4章 解決すべき課題
【解決すべき課題】I.要求状態及び基準状態を確定する課題
本研究の最終的な目的は、単に何らかの冷却作用を発生させることでも、材料、地表面、建築物表面又は局所的な空気を一時的に冷却することでもない。本研究が対象とするのは、地球上の任意場所に設定される大規模開放大気領域について、当該領域を構成する大気そのものの区域平均大気温度を、対応する非介入基準環境より最低5°C低い状態として形成し、その状態を維持し、さらに外乱その他によって要求状態から逸脱した後にも回復可能とする物理系の成立条件を解明することである。
したがって、解決すべき課題を論じる第一段階では、冷却装置又は冷却方式を先に選択するのではなく、本研究において成立させるべき物理状態そのものを明確に定義する必要がある。すなわち、何を最低5°C低下させるのか、何を比較基準とするのか、どの空間範囲について要求状態が成立したと判定するのか、空間的不均一性をどのように取り扱うのか、さらに一時的な温度低下と持続可能な低温状態をどのように区別するのかを確定しなければならない。
これは単なる測定方法又は評価指標の問題ではない。要求状態及び基準状態の定義は、その後に必要となる熱収支、放射収支、物質収支、運動量収支、流体状態、材料状態、相状態、界面状態、境界条件、輸送経路、状態遷移、安定性、維持及び回復の成立条件を規定する。本研究における物理系全体は、この要求状態を成立させるために構成されなければならない。
1.最低5°C低温状態の物理的定義
本研究における「最低5°C低下」が意味する物理量を一義的に定義する必要がある。
既存の温熱環境研究において「温度低下」と表現される対象には、材料表面温度、地表面温度、建築物表面温度、land surface temperature、局所大気温度、特定高度における気温、mean radiant temperature、operative temperature、人体の体感温度その他、物理的意味の異なる多数の量が含まれる。しかし、本研究における最低5°C低下は、これらのいずれか一つを代替指標として達成すれば成立したとみなすものではない。
対象となるのは、研究対象として設定された三次元開放大気領域を構成する大気そのものについて定義される区域平均大気温度である。したがって、地表面、屋根、道路、壁面その他の表面温度が大幅に低下していても、その上方を含む対象大気領域の区域平均大気温度が最低5°C低下していなければ、本研究の要求状態を満たしたことにはならない。同様に、一部の測定点、特定高度、日陰、冷却装置周辺又は限定された局所領域において5°C以上の温度低下が観測されたとしても、それだけでは要求状態が成立したとは判定しない。
この区別によって、本研究を、表面冷却、局所冷却、建築物冷房、人体熱快適性改善その他の問題から明確に分離し、大規模な三次元開放大気体積について、その大気状態自体を対応する非介入状態とは異なる低温状態へ移行させる問題として確定する必要がある。
2.非介入基準環境を確定する課題
最低5°Cという温度差は絶対温度としてではなく、対応する非介入基準環境との差として定義する必要がある。
開放大気の温度は一定ではない。時刻、季節、太陽放射、雲量、湿度、降雨、風向、風速、周辺大気、地表状態、水系、建築物、人工排熱その他の条件によって継続的に変化する。そのため、介入後の対象区域について例えば25°Cという値が得られたとしても、その値だけから物理系による温度低下量を確定することはできない。介入が存在しなかった場合に同一時刻・対応条件下で成立した大気状態が30°Cであったなら5°Cの低下であるが、27°Cであったなら2°Cの低下であり、その物理的意味は異なる。
したがって本研究では、対象となる場所及び時間について、本研究に係る物理的介入が存在しなかった場合に成立したと考えられる大気状態を非介入基準環境として構成し、実際に形成された介入状態との差として温度低下量を評価する必要がある。
この基準状態は、単純な過去平均値、平年値又は近隣一地点の観測値と同義ではない。対象時刻における外部気象条件、周辺大気場、太陽放射及び大気放射、地表・建築物・水系の状態、風況その他、対象区域の温度形成へ寄与する主要条件との対応関係を保持する必要がある。
すなわち、現実には同一地点・同一時刻について「介入した世界」と「介入しなかった世界」を同時に直接観測することはできない以上、観測、比較領域、物理モデル、状態推定及びcounterfactual reconstruction等を通じて、両者を物理的に比較可能な状態として構成する必要がある。この基準環境の精度及び不確実性は、最低5°C低下という本研究の中心的要求の反証可能性そのものに関係するため、後続する観測・検証系と一体として取り扱う必要がある。
3.三次元対象領域の状態を定義する課題
本研究の対象は平面的な土地面積ではなく、地表面から上方へ連続する三次元の開放大気領域である。この領域は均一な一つの空気塊ではなく、内部には温度、湿度、圧力、密度、流速、乱流、放射その他の空間分布が存在し、それらは時間とともに変化する。
地表付近と上層では温度、湿度及び流体状態が異なり得る。道路、水体、植生、建築物、地形、人工熱源等は局所的な熱・物質・運動量交換を発生させ、日射、風向、風速その他の外部条件によってその分布も変化する。また、対象領域は側面及び上面から外部大気と連続しており、熱、物質及び運動量の流入・流出が存在する。
したがって、「区域平均大気温度」という一つの巨視的代表量を定義すると同時に、その値を形成している三次元温度場、湿度場、圧力・密度場、流速場、放射場その他の必要な物理場を関連付けて扱う必要がある。
重要なのは、対象領域を単なる固定測定点の集合として扱わないことである。対象区域は、内部状態及び外部との交換状態が時間とともに変化する物理場として記述されなければならない。これによって初めて、巨視的要求である最低5°C低下と、それを形成又は破壊する局所的物理過程との因果関係を検討できる。
4.空間的不均一性を取り扱う課題
大規模開放大気領域について、全地点が完全に同一温度となることを前提にすることはできない。日向と日陰、道路と水体、建築密集部と開放部、風上と風下、地表付近と上層、熱源近傍と非熱源領域等には異なる温度状態が形成され得る。
したがって、区域平均値だけではなく、どのような三次元空間分布の下で区域平均最低5°C低下が成立しているのかを同時に評価する必要がある。
例えば、ごく一部の領域を極端に低温化することによって算術平均だけを低下させた状態と、対象区域の大部分について実質的な低温状態が形成された状態は、同一の物理状態ではない。また、区域平均値が要求を満たしていても、一部に存在する高温領域が浮力、圧力差、乱流又は移流を発生させ、後に低温状態全体を破壊する起点となる場合がある。
したがって、区域平均温度に加えて、温度分布、空間勾配、鉛直構造、局所的高温領域及び低温領域、その移動・成長・消失等を含む状態記述が必要となる。空間的不均一性は単なる測定誤差又はノイズではなく、Formation、Persistence、Collapse及びRecoveryを決定する物理構造そのものとして取り扱う必要がある。
5.Formation、Persistence、Recoverability及びContinuityを成立させる課題
本研究では、区域平均大気温度が一瞬だけ非介入基準環境より最低5°C低下したことをもって、要求状態が成立したとはしない。対象は継続的に外界と相互作用する開放大気であり、形成された状態は太陽放射、風、湿度、雲量、降雨、外部大気、地表熱、人工排熱その他の作用を受け続ける。
したがって、本研究では少なくともFormation、Persistence、Recoverability及びContinuityを区別する。
Formationは、非介入基準環境に対応する状態又はその他の開始状態から、要求される最低5°C低温状態へ実際に移行させる能力である。Persistenceは、形成された要求状態を、外部との熱・放射・物質・運動量交換及び時間変動する外乱の下でも維持できることである。Recoverabilityは、外乱その他によって要求状態から逸脱した場合にも、要求状態へ戻る物理的経路が残され、かつ当該経路を実際に利用できることである。Continuityは、これらを独立した一回的現象としてではなく、形成→維持→外乱→逸脱→回復→再維持という時間発展の中で反復して成立させられることである。これらの定義は共有ドラフトに明示されている。
したがって、巨大なエネルギー又は有限資源を一度だけ投入することによって最低5°C低下を実現できても、その後のPersistence又はRecoverabilityを失うなら、本研究が要求するContinuityは成立しない。逆に、ある低温状態を長時間維持できる機構が存在しても、通常状態から当該状態へ到達するFormation経路が存在しなければ、要求される物理系とはならない。
本研究で成立させるべき対象は、最低5°Cという一つの数値的到達点ではなく、その状態へ到達でき、維持でき、失われても回復でき、その能力自体を時間的に継続できる物理系である。
【解決すべき課題】II.熱・放射・物質・運動量収支を成立させる課題
対象となる大規模開放大気領域は、外部から隔離された有限容器ではない。太陽及び大気から放射エネルギーを受け、地表、地下、水体、建築物その他との間で熱交換を行い、周囲大気との移流及び乱流交換によって熱、物質及び運動量を継続的に交換する。また、水の蒸発・凝結、材料の相変化、人工排熱その他の過程によっても区域状態は変化する。
したがって、本研究を「対象空気から5°C相当の顕熱を一度取り除けばよい」という問題として定式化することはできない。要求温度へ一時的に到達しても、その瞬間から周囲大気、地表、太陽放射その他との交換によって新たな熱流入及び状態変化が生じるからである。
必要なのは、単発的なheat removalではなく、外界との物理交換が継続する中で要求される低温状態を時間的に形成し続けられる収支構造そのものを成立させることである。
6.区域全体の熱収支を成立させる課題
対象区域の温度状態には、太陽短波放射、大気及び周辺物体からの長波放射、地表面との顕熱交換、蒸発及び凝結に伴う潜熱交換、外部大気からの移流熱輸送、乱流熱輸送、建築物及び人工構造物との熱交換、水体及び地下との熱交換、人工排熱、材料への蓄熱及び材料からの放熱、相変化に伴う潜熱その他、多数のエネルギー交換が関与する。
しかも、これらは独立した加算項ではない。地表の放射収支を変更すれば地表温度が変化し、それによって顕熱flux、浮力及び流体運動が変化する。水分状態を変更すれば潜熱輸送と同時に湿度、密度及び放射条件が変化する。材料の光学特性を変更すれば日射吸収量が変わり、材料温度及び大気への熱放出が変化する。
したがって、必要なのは個々の冷却効果を足し合わせることではなく、一つの状態変更が他の熱輸送過程及び状態変数を再構成する結合熱収支を成立させることである。
さらに、Formation、Persistence及びRecoverabilityでは必要となる収支条件が異なり得る。Formationでは初期状態から要求状態までのエネルギー状態変更が必要であり、Persistenceでは形成された温度差を消失させる継続的な外部熱流入等に対抗する必要がある。Recoverabilityでは、外乱によって変化した状態から要求状態へ戻るための追加的又は異なる熱移送経路が必要となり得る。
したがって、単一の定常的な「必要冷却能力」を求めるのではなく、Formation、Persistence及びRecoverabilityの各過程について時間発展する熱収支を成立させることが必要となる。
7.外部熱流入に対抗する条件を解明する課題
対象区域を周囲環境より最低5°C低い状態へ移行させれば、その温度差自体が、低温状態を消失させる方向の熱輸送を発生又は増大させる。
周囲の高温大気は移流及び乱流混合によって侵入し得る。地表、道路、建築物その他が対象大気より高温であれば顕熱が供給される。太陽放射は地表、建築物、材料及び一部の大気成分へ継続的にエネルギーを供給し、周囲物体及び大気からの長波放射も存在する。
したがって最低5°Cという温度差は、単なる成果指標ではなく、その成果を消失させる物理的駆動力を自ら発生させる条件でもある。
このため、外部熱流入を一つの総熱量としてのみ評価するのではなく、どの経路から、どの時間スケールで、どの程度のエネルギーが侵入するかを分解し、その支配経路を明らかにする必要がある。さらに、すべての流入熱を事後的な冷却によって除去する必要があるとは限らない。流入前に抑制できるもの、経路を変更できるもの、一時的に蓄積できるもの、区域外又は別のsinkへ輸送できるものを区別する必要がある。
したがって本研究の課題は、「熱流入量より大きな冷却能力を設置すること」ではなく、高温化を形成する熱輸送経路そのものを識別し、侵入抑制、経路変更、蓄積、輸送及び排出を含む複数の物理作用によって区域全体の熱収支を要求状態側へ構成することである。
8.移動させた熱の最終的な移送先を成立させる課題
ここは本研究において極めて重要である。
対象大気から熱を取り除くことと、その熱を物理系全体として処理したことは同義ではない。大気から地表、地下、水体、建築物、蓄熱材料その他へ熱を移動させれば、大気温度を一時的に低下させることは可能である。しかし受熱側が加熱又は飽和し、その熱が後に同じ大気へ戻れば、Persistenceは成立しない。
さらに、対象区域から周辺区域へ熱を排出する方式も、それだけでは問題を解いたことにならない。対象区域Aから熱を区域Bへ移動すればAは冷却できるが、Bには追加的な熱負荷が発生する。そこでBからCへ移送し、さらにCからDへ移送するという構成を採れば、冷却対象の外側へ熱負荷を順次転嫁しているだけで、地球全体としてのエネルギー収支は閉じない。
対象区域が増加し、この考え方を地域、国家、大陸さらには地球規模へ拡張した場合、この問題はさらに明瞭になる。地球表面上のある場所から別の場所へ熱を移動し続けても、最終的な受け入れ先が地球系内部にしか存在しないなら、移送先の熱状態を変化させ、その場所について再び熱処理が必要となる。この連鎖だけでは、最終的な熱処理問題は消滅しない。
したがって本研究では、熱を「対象区域の外へ出した」ことを最終解とみなしてはならない。
必要なのは、移動させた熱について、どこへ移し、どの程度の時間保持し、どのように再利用又は変換し、最終的にどの物理的sinkへ接続するかまでを含む時間発展する熱輸送系を成立させることである。
地表・地下・水体その他は時間差を形成するthermal reservoirとして利用可能であり得るが、それらも無限容量のsinkではない。相変化材料その他についても同様であり、蓄熱容量、回復時間、再生条件及び再利用可能性を考慮しなければならない。
したがって、Persistence及びRecoverabilityを成立させるには、現在の低温状態を維持するために利用可能なthermal sinkを消費し尽くして将来の回復能力を失うことなく、熱の受入れ、蓄積、輸送、変換、排出、再生及び再利用までを含むreservoir networkとして成立させることが課題となる。
9.地球―宇宙間エネルギー交換まで含めて最終的なエネルギー経路を成立させる課題
前節の問題を追跡すると、本研究における熱収支の物理境界は対象区域の外周では終わらず、地域境界、国家境界又は大陸境界でも終わらない。
地球は太陽から放射エネルギーを受け、同時に長波放射によって地球外へエネルギーを放出する開放系である。したがって、地球上のある場所から別の場所へ熱を移すこととは異なり、地球系そのものから外部へエネルギーを移送する経路は、最終的な熱収支を考える上で本質的に異なる役割を持つ。
対象区域に到達する太陽放射については、総エネルギー量だけではなく、波長、入射方向、時間変化、大気透過、雲による吸収・散乱、地表及び材料による反射・吸収等によって、区域状態へ実際に結合するエネルギー量が決定される。一方、地表、材料及び大気から放出される長波放射についても、大気吸収帯、大気透過窓、水蒸気、雲、エアロゾル、放射方向及びspectral emissivity等によって、大気内部で再吸収される成分と、上層大気又は地球外へ到達する成分が異なる。
したがって、本研究では特定の「放射冷却技術」を採用するか否かという狭い問題ではなく、太陽からのエネルギー入力、対象区域への結合、地表・材料・大気間での交換、大気中での伝播、地球放射及び地球外への最終的なエネルギー移送までを、一つの連続したradiative pathwayとして取り扱う必要がある。
同時に、この経路を変更すれば大気・地表・雲・水分その他の状態も変化し得るため、放射経路だけを他の物理系から切り離して最適化することもできない。
すなわち、本研究における地球―宇宙接続は付加的な宇宙工学的検討ではなく、「移動させた熱は最終的にどこへ行くのか」という問いを物理的に閉じるために不可欠な開放境界の一部として位置付ける必要がある。
10.物質収支を成立させる課題
大規模開放大気領域の温度状態は顕熱だけでは決定されない。特に水は、液体、水蒸気、液滴その他の状態を取り、蒸発及び凝結に伴う潜熱輸送を通じて熱状態へ直接関与する。また、吸着・脱着、材料内部への水分保持その他を利用する場合にも、熱輸送と物質輸送を分離することはできない。
したがって、水その他の物質を利用する場合には、その瞬間に得られる冷却効果だけでなく、物質がどこから供給され、どの状態又は相で存在し、どの経路を通り、どこで状態変化し、どこへ輸送され、どのように回収・再生・循環されるかまでを収支として成立させる必要がある。
例えば、蒸発によって潜熱を利用すれば水蒸気量が増加する。その湿度変化は潜熱だけではなく、密度、浮力、放射輸送、凝結、霧・雲形成その他の後続状態へ影響し得る。したがって、蒸発による温度低下だけを取り出して「冷却効果」と評価することはできない。
また、物質を区域外へ輸送すれば、その物質とともにenthalpyその他も移送される。このため、mass transportそのものをenergy transportとして利用する場合も含め、熱と物質を同一の輸送構造として扱う必要がある。
Persistence及びRecoverabilityを成立させるためには、一方向に物質を消費し続けるだけではなく、供給、回収、相転移、再生、reservoir間輸送及び循環時間を含む時間発展する物質循環系として成立条件を明らかにする必要がある。
11.運動量収支との整合を成立させる課題
大気は静止した熱媒体ではなく、質量及び運動量を有する流体である。したがって、温度状態を変化させれば、密度、浮力、圧力分布及び流体運動が変化し、その流体運動が再び熱及び物質の輸送を変化させる。
特に、対象区域と周囲環境との間に大きな温度差を形成すれば、その温度差に伴う密度差及び圧力状態の変化によって、新たな流体運動が誘起され得る。また、地表温度、建築物配置、地形、日射分布その他によって局所的な圧力差及び乱流構造が形成されれば、区域境界を横断する大気交換そのものが変化する。
したがって、ある熱輸送経路を抑制する操作が別の流体経路を形成し、そこから高温大気を大量に侵入させるなら、局所的な熱収支改善は区域全体では意味を失う。逆に、運動量場及び流体構造を適切に形成することによって、熱及び物質の輸送経路そのものを変更できる場合もある。
このため本研究では、風、浮力、圧力差及び乱流を単なる外乱項として扱うのではなく、要求される低温状態を構成する物理状態そのものとして取り扱い、熱収支、放射収支、物質収支及び運動量収支を相互に整合させる必要がある。
【解決すべき課題】第II節の到達点
以上から、本研究に必要なのは、単純な意味での「必要冷却能力」を求め、その能力を持つ装置を大型化することではない。
対象区域では、熱、放射、物質及び運動量が外部環境との間で継続的に交換され、一つの輸送過程を変更すれば他の状態及び輸送過程も変化する。さらに、対象区域から熱を排出しても、それを隣接区域、さらにその外側へ順次移送するだけでは、地球系全体として熱処理問題を解いたことにはならない。
したがって解くべき問題は、対象区域へ流入するエネルギーをどの段階及び経路で抑制し、既に存在する熱をどの経路へ移し、どのreservoirへ一時的に保持し、どのように再利用、変換又は排出し、最終的にどのsinkへ接続するのか。同時に、これらの操作によって生じる物質及び運動量の再配分をどのように整合させれば、最低5°C低温状態のFormation、Persistence、Recoverability及びContinuityを成立させられるのか、という結合非平衡開放系全体の収支構造を成立させる問題である。
そして、熱収支を成立させること自体も最終解ではない。 温度差を形成すれば密度及び浮力が変化し、熱収支を変更すれば流体場が変化し、流体場が変化すれば熱・物質・運動量輸送が再び変化する。
したがって次に解かなければならないのは、まさにこの自己作用を含む、III.開放大気及び流体系に固有の課題である。
【解決すべき課題】III.開放大気及び流体系に固有の課題
前節で整理した熱・放射・物質・運動量収支は、要求された最低5°C低温状態を成立させるための基礎条件である。しかし、大気は単に熱容量を有する受動的媒体ではない。温度、密度、圧力、湿度及び運動量の空間差によって自ら運動し、その運動によって熱、物質、水分及び運動量の輸送経路そのものを再構成する流体系である。したがって、本研究では、大気流動を外部から与えられる固定的な気象条件として扱うことはできない。
特に、対象区域を周囲環境より最低5°C低い状態へ移行させれば、その温度差自体が新たな密度差、浮力、圧力分布、成層及び流体運動を形成する。すなわち、本研究が形成しようとする低温状態は、単なる最終出力ではなく、次の流体状態を生成する新たな入力条件となる。
このため、要求状態は、
temperature state → density / pressure state → fluid state → transport state → temperature state
というfeedbackを内包する自己整合的な非平衡流体状態として成立させなければならない。
12.外部大気の移流による低温状態破壊に対応する課題
対象区域は外部大気から完全に隔離されないため、区域境界を横断する大気の流入及び流出が継続する。周囲大気が対象区域より高温であれば、その流入は単なる「風」ではなく、熱、水蒸気及び運動量を対象区域へ直接輸送する経路となる。
この移流輸送は、境界面積と平均風速だけによって決定されるものではない。風向、風速、鉛直風速分布、地形、建築物配置、地表粗度、大気安定度、温度差によって形成される局所圧力場その他によって、外部大気がどこから侵入し、区域内部をどの経路で通過し、どこから流出するかが変化する。
さらに重要なのは、最低5°C低温状態を形成すること自体によって、介入前とは異なる密度及び圧力場が形成されることである。したがって、介入前の風況を固定された境界条件として用いるだけでは不十分であり、低温状態形成後に新たに発生する流入・流出構造を同時に解かなければならない。
したがって本研究では、外部大気を全面的に遮断することを目的とするのではなく、開放性を保持しながら、どの大気交換を許容し、どの流入経路が要求状態を破壊し、どの経路を変更又は抑制すべきかを明らかにする必要がある。
13.乱流混合及びEntrainmentに対応する課題
大規模な開放大気領域では、平均流だけでなく、多数の空間・時間スケールを持つ乱流によって熱、物質及び運動量が輸送される。対象区域と周囲環境との間に最低5°Cの温度差が形成されれば、その境界は単なる幾何学的境界ではなく、異なる温度、密度、湿度及び運動量を持つ流体が接触する混合領域となる。
そこで発生する乱流渦及びentrainmentによって、周囲の高温大気が低温領域へ取り込まれ、同時に低温大気が区域外へ輸送される。このため、平均温度及び平均風速が一見安定していても、乱流構造の成長によって要求状態が急速に崩れる場合がある。
特に重要なのは、局所的な混合構造が成長し、複数の領域を接続することで、外部高温大気を区域内部へ輸送する支配的な経路へ変化し得ることである。一方で、流体構造を物理的に設計又は誘導できる場合には、混合が発生する位置、方向、強度及び時間を変更できる可能性もある。
したがって乱流を「予測不能なノイズ」として処理するのではなく、Formation、Persistence及びCollapseを決定する輸送構造として扱い、その発生、成長、結合、伝播及び消失条件を解明する必要がある。
14.温度差自身が形成する浮力及び圧力Feedbackを解明する課題
最低5°C低温状態は、その成立によって自身の周囲に新たな力学条件を形成する。温度が低下すれば、圧力その他の条件との関係に応じて密度が変化し、重力場の下で浮力差が発生する。対象区域内外に形成された密度差は、鉛直運動、水平圧力勾配、cold-air drainage、局所循環その他の流体運動を発生させ得る。
したがって、
低温状態形成
→ 密度・圧力状態変化
→ 浮力・流体運動変化
→ 熱・物質・運動量輸送変化
→ 温度状態再変化
という閉じたfeedbackが成立する。
このfeedbackが要求状態を安定化する場合もあれば、高温大気の侵入、低温大気の流出又は強い混合を誘発し、要求状態を破壊する場合もある。したがって、最低5°Cという温度差を流体力学から独立した単なる設定値として扱うことはできず、その温度差によって新たに形成される流体状態まで含めて、自己整合的な低温状態を成立させる必要がある。
15.大気成層の安定・不安定条件を解明する課題
対象区域の温度、湿度及び密度が高度方向に分布すれば、大気成層の安定性が要求状態の維持又は崩壊を左右する。
低温で高密度の空気が地表付近に存在し、その上部に相対的に高温の大気が存在すれば、一定条件では安定成層が形成され得る。しかし、地表加熱、日射変動、湿度変化、風shear、外部大気侵入その他によって成層条件が変化すれば、対流及び乱流混合が急激に増大し、低温状態が短時間で破壊される可能性がある。
したがって、本研究では単に区域平均温度を低下させるだけでなく、どの鉛直温度・湿度・密度分布が要求状態と両立し、その状態がどの範囲の外乱まで安定であり、どの条件を超えると別の流体状態へ遷移するのかを明らかにする必要がある。
16.地形及び都市形状による流体場変化に対応する課題
対象区域が現実の大規模不動産、都市又は地域である以上、平坦で一様な理想地表だけを想定することはできない。山地、谷地、盆地、沿岸、島嶼、河川、湖沼、森林、道路、低層・高層建築物、高密度市街地その他、多様な地形及び人工構造が存在する。
これらは単なる背景条件ではなく、風路、wake、recirculation、street canyon、圧力差及び乱流構造を形成し、熱・物質・運動量輸送経路そのものを決定する。
したがって、本研究では特定地形に対して一つの固定冷却構成を適用するのではなく、対象地点に現実に存在する地形及び人工構造を物理的境界条件として読み取り、その条件下で要求状態を成立させる流体・熱・物質構成を導出できる必要がある。
17.湿潤大気として要求状態を成立させる課題
実際の大気は乾燥空気だけで構成される単純流体ではない。水蒸気量は潜熱輸送、密度、浮力、凝結、蒸発、霧・雲形成及び放射輸送へ直接作用する。
蒸発、吸着・脱着その他を冷却へ利用すれば、温度低下と同時に水分状態が変化する。逆に温度を低下させれば露点との関係が変化し、凝結、霧、雲又は液滴形成等が新たに発生し得る。
その結果、temperature fieldだけを低下させても、water-vapor fieldの変化によって別の熱・流体・放射状態が形成される可能性がある。
したがって、本研究ではtemperature fieldとwater-vapor fieldを独立に最適化するのではなく、湿潤enthalpy、相変化、浮力、放射、流体及び物質輸送を一体化した湿潤大気状態として要求状態を成立させる必要がある。
18.人工的温度場が破局的大気状態へ遷移する危険を排除する課題
ここは旧稿から明確に強化すべき点である。
最低5°Cという大規模な人工温度差を形成すれば、それは単なる「涼しい区域」ではなく、周囲の大気に対して人工的な温度勾配、密度勾配及び圧力勾配を形成する。その勾配が水蒸気、海洋、地形、既存風系、大気成層及び地球自転に伴う回転効果と非線形に結合した場合、形成される大気状態は局所的な温度変化にとどまらない。
巨大なハリケーン若しくはこれに類する熱帯低気圧、超大型暴風、極端な集中豪雨及び洪水、長期間継続する異常降水、広域的な干ばつ、モンスーンその他の大規模循環の変位、異常高温又は異常低温、農業地域への水蒸気輸送の変化その他、人類社会に致命的な損害を与え得る破局的気象・水循環事象が形成又は増幅される危険性は排除できない。
したがって、本研究において要求されるのは、最低5°C低温状態を形成できることだけではない。人工的に形成された温度場、圧力場、湿度場及び流体場が、破局的大気状態へ遷移しない成立領域を明らかにし、その領域内でFormation、Persistence及びRecoverabilityを成立させることが必要となる。
この意味で安全性は本研究に後付けされる制約ではない。低温状態そのものが大気運動を再構成する以上、破局的状態遷移を排除することは、要求状態そのものの成立条件の一部である。
【解決すべき課題】第III節の到達点
以上から、本研究における大気は冷却される受動的媒体ではない。
最低5°C低温状態を形成すること自体が、密度、圧力、浮力、成層、乱流、移流、水分輸送及び大気循環を変化させ、その変化した流体状態が再び温度状態を形成する。
したがって、要求状態は単なるtemperature targetではなく、
thermal state
→ density / pressure state
→ fluid state
→ transport state
→ thermal state
というfeedbackを内包し、さらに破局的大気状態への遷移を回避する必要のある、自己整合的な非平衡流体状態として成立させなければならない。
【解決すべき課題】IV.物質・相・界面・輸送構造を構成する課題
前節までの検討から、大規模実環境の温度状態は、単に「どれだけの熱が存在するか」だけでは決定されない。熱、放射、物質及び運動量が、どの経路を通り、どの境界を横断し、どのreservoirへ到達できるかによって、その状態は大きく変化する。
したがって、本研究では物質、材料、設備、表面及び界面を固定された受動構造として扱うだけでは不十分である。材料物性、相状態、界面状態及び輸送経路そのものを、最低5°C低温状態のFormation、Persistence、Recoverability及びContinuityを成立させるために再構成可能な物理自由度として扱う必要がある。
19.材料物性を固定値としない物理系を構成する課題
一般的な熱解析では、熱伝導率、比熱、放射率、反射率、透過率その他の材料物性を所与の値として扱うことが多い。しかし、responsive materials、phase-change materials、electro-optic materials、thermochromic materials、soft matterその他では、外部刺激又は内部状態によって物性そのものを変化させることが可能である。
この場合、材料は単に熱を受ける又は伝える部材ではなく、その時点の状態に応じて、熱、放射及び物質の通過条件を変更する物理構成要素となる。
したがって本研究では、Formation時、Persistence時、外乱時及びRecoverability時に、それぞれどの物性をどの場所でどの状態へ変更する必要があるかを明らかにし、固定物性を前提としない時間発展型の物理系を構成する必要がある。
20.相状態を利用した熱状態形成の課題
物質の相状態は、熱容量及び熱伝導だけでなく、latent heat、entropy、密度、形状、光学特性、界面特性及び輸送特性を大きく変化させ得る。
したがって、相転移を単なる受動的な蓄熱現象として利用するだけではなく、物理系の機能そのものを変更する状態自由度として扱う必要がある。
Formation段階では特定の相状態によって大量の熱を受容し、Persistence段階では別の輸送特性を形成し、Recoverability段階では再生又は再転移によって利用可能状態へ戻す、といった時間的再構成が考えられる。
したがって課題は「高性能な相変化材料を選ぶこと」ではなく、相状態の変化が次に成立可能な物理状態そのものをどう変更するかを含めて、低温状態形成系へ組み込むことである。
21.界面状態を動的に構成する課題
熱、放射及び物質の輸送は、物質内部だけではなく、その境界となる界面によって強く規定される。
大気―固体、大気―液体、固体―液体、材料―材料その他の界面では、熱伝達、放射、反射、吸収、蒸発、凝結、wetting、adsorptionその他の交換過程が生じる。
したがって界面を固定された幾何学的境界とみなすのではなく、その温度、相、表面状態、wetting、光学応答、化学状態その他を変更することによって、界面を横断する物理交換条件そのものを再構成する必要がある。
同一材料であっても、界面状態が変化すれば周囲大気との熱及び物質交換は変化する。したがって、材料内部の物性制御と界面制御を別々に扱うのではなく、一体の状態形成機構として設計する必要がある。
22.熱輸送経路そのものを再構成する課題
従来の冷却問題では、発生した熱をどれだけ効率良く除去できるかが中心になる。しかし本研究では、さらに一段上流へ戻り、熱がどこからどこへ移動可能であるかという経路そのものを設計対象とする必要がある。
熱源から対象大気へ熱が到達する経路、区域内部からthermal reservoirへ熱を移す経路、reservoirから別のsinkへ移送する経路を、すべて所与として受け入れる必要はない。
異方性材料、thermal metamaterials、相変化、流体構造、界面制御その他によってheat-flow topologyを変更できるならば、要求状態を破壊する熱流を「後から取り除く」のではなく、その熱流経路自体を成立させない、弱める、迂回させる又は別のsinkへ再配線することが可能となる。
したがって対象区域のthermal networkを固定された熱回路としてではなく、Formation、Persistence及びRecoverabilityに応じて構成が変化し得る時間発展型輸送ネットワークとして扱う必要がある。
23.放射輸送経路を選択的に形成する課題
放射についても、総エネルギー量だけでは不十分であり、波長、方向、位置及び時間によって物理的作用が異なる。
したがって、太陽放射を一律に遮る又は長波放射を一律に増加させるだけではなく、どの放射を受け入れ、どの放射を反射し、どの波長帯を透過させ、どの方向へ熱放射を行うかを選択的に構成する必要がある。
特に対象区域を人間が通常利用する実環境として維持する場合には、可視光利用、景観、植物、建築利用等を保持しながら、熱的に有害な放射作用だけを制御する必要が生じ得る。
さらに大気透過窓を利用して宇宙へ接続する場合には、材料側だけでなく、水蒸気、雲、エアロゾル及び上層大気を含むradiative pathway全体として成立条件を評価する必要がある。
24.物質輸送経路を形成する課題
水その他の物質を低温状態形成へ利用する場合、その物質の存在量だけではなく、どこから供給され、どこを通り、どこで相又は状態を変え、どこへ回収されるかが重要になる。
物質はそれ自体がenthalpy、latent heatその他を輸送するため、mass transportとheat transportは独立していない。
したがって、必要物質を必要な場所へ移す経路、利用後の物質を回収する経路、相転移後に再生する経路、reservoir間を循環する経路及びそれに伴うエネルギー移動を一体的に構成する必要がある。
特に大規模系では、一方向に水又は材料を消費し続ける方式ではPersistence及びRecoverabilityが成立しない可能性がある。したがって、供給、利用、回収、再生及び再利用までを含む物質循環として成立させる必要がある。
25.動的境界を形成する課題
本研究の対象区域は、必ずしも固定壁によって外部大気から密閉されるものではない。しかし、物理的に開放されていることと、熱、放射、物質及び運動量が無条件に自由通過することは同義ではない。
各物理量は異なる法則及び輸送機構に従って境界を横断する。このため、幾何学的な壁が存在しなくても、材料状態、相状態、界面状態、流体構造、放射特性、電磁的作用その他によって、特定の物理作用だけに異なる通過条件を形成できる可能性がある。
したがって本研究では、対象区域の境界を固定された線又は面としてのみ扱うのではなく、
どの物理量を通過させるか、
どの輸送を抑制するか、
どの方向への輸送を許容するか、
どの条件下で境界特性を変更するか、
が時間的・空間的に変化する実効的な動的境界として構成する必要がある。共有ドラフトでも、この「開放性を保持しながら要求状態と両立する交換を成立させる実効的境界」が明確に位置付けられている。
26.動的境界そのものが新たな危険を形成しない条件を解明する課題
ここも前章までのRed Teamを反映して新たに明示すべき課題である。
動的境界又はシールドによって熱、放射、物質又は運動量の通過を選択的に変更できたとしても、その境界が周囲へ新たな温度勾配、圧力差、流体偏向、放射集中、粒子集積その他を形成するならば、別の危険状態を作る可能性がある。
特に大規模な境界によって大気流又は放射場を再配分した場合、境界直下だけではなく、その外側に新たな熱負荷、風系、降水分布又は流体不安定性が形成され得る。
したがって、動的境界の性能評価を「要求区域への熱流入を何%減らしたか」だけで行うことはできない。境界によって拒否、反射、偏向又は再配分されたエネルギー、物質及び運動量がどこへ到達し、その結果としてどの二次的又は高次的状態を形成するかまで追跡する必要がある。
【解決すべき課題】第IV節の到達点
以上から、本研究における物質・材料・相・界面・境界は、固定された容器又は受動的部材ではない。
材料物性、相状態、界面交換条件、熱流経路、放射経路、物質輸送経路及び実効的境界そのものを時間的に変更できる場合、対象区域で次に成立可能な温度・流体状態そのものを変更できる。
したがって、本研究の課題は、より高性能な「冷却材料」を一つ発見することではない。
要求状態を破壊する熱・放射・物質・運動量経路を識別し、それらを抑制、迂回、切替え又は再接続し、要求状態を形成する経路を必要な時点で成立させ、外乱後には回復経路を再形成できる物質・相・界面・輸送構造を構成することである。
【解決すべき課題】V.異なる物理階層を接続する課題
前節までに示したように、大規模開放大気領域の温度状態は、熱、放射、流体、物質、相、界面、材料、地表、地下、水系その他、多数の物理要素の相互作用によって形成される。
しかし、これらの物理作用は同一の空間尺度及び時間尺度で生じるものではない。
材料内部の電子状態、phonon輸送、光学応答、相転移及び界面相互作用は微視的又はmesoscopicな階層で生じる一方、その結果として変化する熱伝導率、放射率、反射率、透過率、吸収特性、濡れ性その他の材料特性は、より大きな材料・構造スケールの輸送条件を規定する。さらに、その輸送条件の変化が地表、大気、流体、水分及び放射の状態へ伝播することによって、最終的に大規模実環境の温度状態が形成される。
したがって、本研究では異なる専門領域を並列的に検討するだけでは足りない。必要なのは、微視的状態の変更がどの中間状態を介して巨視的な最低5°C低温状態へ到達するのか、その階層間の物理的因果経路を成立させることである。
27.微視的状態と巨視的温度状態を接続する課題
材料の電子状態、原子・分子配置、phonon状態、相状態、界面状態その他の微視的自由度を変更したとしても、それだけでは本研究の要求状態が成立したことにはならない。
例えば、ある微視的状態変更によって材料の熱伝導率が変化した場合、
微視的状態変化
→ 材料物性変化
→ 熱輸送経路変化
→ 表面又は界面熱流束変化
→ 周辺大気との熱交換変化
→ 流体・密度・湿度状態変化
→ 大規模温度場変化
という複数階層を経由して初めて、対象区域の温度状態へ作用する。
同様に、材料の光学状態を変更した場合には、
微視的状態変化
→ 吸収・反射・透過・放射特性変化
→ 放射エネルギー収支変化
→ 材料及び地表温度変化
→ 顕熱・潜熱・放射交換変化
→ 大気状態変化
という別の接続経路が成立し得る。
したがって本研究では、微視的な効果の大きさだけを評価するのではなく、その効果がどの物理階層を通じて最終的な要求状態へ伝達されるのかを明示的に接続する必要がある。
28.量子論を巨視的要求へ接続する課題
本研究において量子論を扱う必要性は、「量子技術を使用すること」自体を目的とするものではない。
材料の電子状態、光学応答、phonon輸送、相転移、界面状態その他、巨視的な熱・放射・物質輸送特性を規定する微視的機構の一部は量子論によって記述される。このため、既存の古典的材料又は装置だけでは得られない輸送特性、光学特性、相状態又は界面応答が必要となった場合、その成立可能性を微視的階層まで遡って検討する必要がある。
一方、量子状態、quantum metric、coherence、entanglement structure、non-Hermitian state、protected stateその他の概念についても、それらが存在すること自体は本研究への採用理由にはならない。
本研究で必要なのは、
量子的又は微視的状態
→ 材料物性又は応答
→ 熱・放射・物質輸送
→ 境界条件又は流体状態
→ 巨視的温度状態
という具体的な物理接続が成立する場合に限り、その自由度を候補として取り扱うことである。
したがって、量子論を古典物理に代替する上位理論として扱うのではなく、最低5°C低温状態を成立させるために必要な巨視的物性を実現する候補自由度の起点の一つとして位置付ける必要がある。
29.階層間で作用が減衰、増幅又は消失する条件を解明する課題
微視的階層で大きな物理効果が得られたとしても、それが巨視的階層で同じ大きさの効果として現れるとは限らない。
局所的な材料物性変化が、空間平均によって希釈される場合がある。逆に、小さな局所変化が相転移、流体不安定性、臨界現象又はfeedbackを介して巨視的変化へ増幅される場合もある。また、複数階層間の結合が弱ければ、微視的状態を大きく変更しても対象大気の温度状態にはほとんど影響しない。
したがって、各階層における効果の存在を示すだけでは不十分であり、
どの作用が次の階層へ伝達されるのか、
どの作用が途中で減衰又は消失するのか、
どの作用が非線形に増幅されるのか、
どの階層が全体系のbottleneckとなるのか
を明らかにする必要がある。
これは、材料スケールで得られたsub-ambient coolingその他の優れた性能を、そのまま大規模実環境へ外挿できない理由でもある。
30.空間尺度を横断する課題
本研究で関係する空間尺度は、原子・分子又は電子状態から、材料、界面、構造物、地表、大気境界層、地域、さらに必要に応じて地球―宇宙間の放射経路まで広がる。
しかし、単に「multi-scale」と表現するだけでは解決にならない。
各空間尺度について、
どの状態変数を保持する必要があるか、
どの自由度を粗視化できるか、
どの局所構造を巨視的モデルへ残す必要があるか、
どの境界条件を次の尺度へ渡す必要があるか、
を決定しなければならない。
特に、局所的に成立した冷却作用が大規模化によって失われる場合と、複数の局所作用が協調することで巨視的な状態形成へ到達する場合を区別する必要がある。
したがって、本研究では「小さな装置を多数設置すれば巨大な冷却になる」という単純な線形外挿を前提とせず、空間尺度の変更によって新たに発生する流体、放射、輸送、境界及びfeedbackを含めて再評価する必要がある。
31.時間尺度を横断する課題
異なる物理作用は異なる時間尺度を有する。
電子・光学応答は極めて短い時間尺度で変化し得る一方、材料の相転移、熱拡散、水分輸送、地表・地下蓄熱、大気循環、季節変動その他は、それぞれ異なる時間尺度で進行する。
したがって、ある物理作用が瞬間的に最低5°C低下へ寄与したとしても、その作用がPersistenceに必要な時間尺度で継続できるとは限らない。逆に、応答速度は遅くても巨大なthermal reservoirとして長期間機能する物理過程も存在し得る。
さらにRecoverabilityでは、要求状態へ戻るために必要な回復時間そのものが重要になる。
したがって、異なる物理機構を統合する際には、それぞれの応答時間、持続時間、緩和時間、再生時間及び回復時間を整合させ、Formation、Persistence及びRecoveryの時間構造全体として成立させる必要がある。
32.異なる物理法則を一つの状態形成問題へ接続する課題
本研究では、熱力学、非平衡熱力学、流体力学、放射輸送、物質輸送、材料科学、物性物理、界面科学、量子論、地球物理及び必要に応じて宇宙物理等、異なる記述体系が関係する。
しかし、これらを一つの巨大な方程式へ形式的に統合すること自体が目的ではない。
必要なのは、最低5°C低温状態のFormation、Persistence、Recoverability及びContinuityという要求に対して、どの階層のどの自由度が実際に支配的であり、どの階層間接続を保持しなければ要求状態を説明・予測・制御できないのかを抽出することである。
したがって、本研究における統合とは、既存物理学の分野名を並列配置することではなく、一つの要求状態へ至る因果的な物理経路として必要な部分を接続することである。
【解決すべき課題】第V節の到達点
以上から、本研究において異なる物理階層を扱う理由は、対象範囲を無制限に拡大するためではない。
最低5°Cという巨視的要求状態を形成するために利用可能な物理自由度の起点が、材料、相、界面、電子、phononその他の微視的階層に存在し、その作用が輸送、境界、流体及び大気状態を介して巨視的状態へ接続されるからである。
したがって問題は、
どの微視的又は局所的状態を変更すれば、どの中間状態及び輸送経路が変化し、その変化がどのように大規模実環境の最低5°C低温状態へ到達するのか
という階層横断的な状態遷移経路を特定することである。
【解決すべき課題】VI.状態空間、到達可能性及び動的境界を構成する課題
ここまでの検討によって、本研究で利用可能な物理的自由度は極めて多数存在することが分かる。
温度、圧力、密度、湿度、流速、放射、材料物性、相状態、界面状態、地表状態、水系状態、熱reservoir、輸送経路、境界条件その他が変化可能であり、それらの組合せによって膨大な数の物理状態が考えられる。
しかし、物理的に記述可能な状態と、現在状態から実際に成立させることができる状態は同一ではない。
ここに本研究の中心的課題の一つが存在する。
33.物理状態空間を構成する課題
本研究では、対象区域及びそれに接続される物理系について、単一の温度変数だけではなく、要求状態の成立性を決定する状態変数群を含む状態空間を構成する必要がある。
その状態には、少なくとも温度場、湿度場、圧力・密度場、流体場、放射状態、材料状態、相状態、界面状態、利用可能なthermal reservoir、輸送経路及び境界条件等が含まれ得る。
ただし、考え得る全ての自由度を無制限に状態変数へ追加すればよいわけではない。要求状態のFormation、Persistence、Collapse及びRecoveryを区別するために必要な状態変数を抽出し、物理的に意味のある状態空間を構成する必要がある。
34.「可能な状態」と「到達可能な状態」を区別する課題
ある温度、材料状態、流体状態又は放射状態が物理法則に反していないことと、現在状態から実際にその状態へ到達できることは異なる。
ある要求状態へ至るために必要なエネルギーが供給できない場合、必要な材料状態を形成できない場合、途中で不可逆な相転移又は不安定状態を通過しなければならない場合、あるいは途中の状態が安全上許容できない場合、その最終状態は理論的には記述可能であっても、本研究における実行可能状態とはならない。
したがって、
state existence ≠ state reachability ≠ physical executability
として区別する必要がある。
本研究で必要なのは、最低5°C低温状態が状態空間のどこかに数学的に存在することを示すだけではなく、現在の実世界状態から、その状態へ至る物理的に成立可能な経路を構成することである。
35.状態遷移経路を構成する課題
要求状態へ到達するには、現在状態から最終状態までの間に複数の中間状態を経由する場合がある。
例えば、
材料状態変更
→ 放射特性変更
→ 地表熱収支変更
→ 流体状態変更
→ 大気温度低下
という経路と、
水分状態変更
→ 潜熱輸送変更
→ 湿度・浮力変更
→ 流体輸送変更
→ 大気温度低下
という経路は、同じ最終温度状態へ向かっていても、途中の状態、必要エネルギー、副作用、安定性及びRecoverabilityが異なる。
したがって、最終状態だけを比較するのではなく、そこへ至るtrajectoryそのものを評価する必要がある。
さらに、一つの経路が途中で失敗した場合に別経路へ切り替えられるか、複数経路を同時に利用できるか、ある経路を使用したことによって別の将来経路が消失しないかも重要となる。
36.高温化及び危険状態へ向かう遷移を識別する課題
状態空間には、要求される低温状態へ向かう遷移だけが存在するわけではない。
材料の過熱、thermal reservoirの飽和、湿度上昇、放射閉塞、乱流増大、高温大気侵入、界面性能低下、相状態喪失その他によって、要求状態から離れる遷移も存在する。
さらに、前節で述べたように、人工温度場が大気・水循環と非線形に結合すれば、巨大ハリケーン、超大型暴風、豪雨、洪水、干ばつその他、人類社会に致命的な損害を与え得る状態へ向かう遷移の危険性も排除できない。
したがって、本研究では「望ましい状態へどう到達するか」だけではなく、どの状態及び状態遷移が要求状態を破壊し、又は破局的状態へ接続するのかを識別し、それらの遷移を成立させない条件を求める必要がある。
37.実行可能状態の境界が時間とともに変化する問題
現在時刻において到達可能な状態集合が、将来も同じであるとは限らない。
太陽放射、風、湿度、雲、地表温度、水系状態、材料相、thermal reservoir残量、設備状態その他が変化すれば、利用可能な物理作用及び到達可能状態も変化する。
したがって、実行可能性の境界は固定されていない。
ある時刻 t における実行可能状態集合を概念的に A(t) とすれば、 A(t)=A(t+Δt)
となり得る。
さらに重要なのは、現在行った操作そのものが将来の A を変更することである。
例えば、現在の低温状態を維持するためにthermal reservoirを使い切れば、将来のRecoveryに必要な状態が到達不能となる可能性がある。水資源、材料相、蓄熱能力その他についても同様である。
したがって、現在の最低5°C達成だけを最適化すると、将来のPersistence又はRecoverabilityを破壊する可能性がある。
38.動的な実行可能性境界を認識する課題
以上から、本研究では、状態が要求温度を満たしているか否かだけでなく、その時点でどの状態遷移が実際に成立可能であるかを規定する動的境界を認識する必要がある。
この境界は、エネルギー、物質、材料状態、相状態、流体状態、放射条件、地表・地下・水系状態、利用可能なreservoir、外部環境その他によって時間的に変化する。
したがって、固定された閾値又は一度設定した安全領域だけでは、時間発展する実世界系を十分に記述できない。
要求状態へ向かう経路が現在も成立しているのか、Persistence経路が失われつつないか、Recovery経路が残されているか、危険状態への遷移が新たに成立可能となっていないかを継続的に評価する必要がある。
39.現在の成功によって将来の選択肢を失わない条件を解明する課題
これは本研究におけるContinuityの核心の一つとなる。
現在の温度を最低5°C低下させる操作が、その後に必要となる物理資源又は状態を不可逆に消費する場合、現在時点では成功していても長期的には成立しない。
例えば、有限thermal reservoirの枯渇、材料劣化、不可逆相変化、水資源消費、界面性能喪失、輸送経路閉塞その他によって、将来利用可能な状態集合が縮小する可能性がある。
したがって、各操作は現在のtemperature reductionだけでなく、
その操作後にどの状態が残るか、
どの遷移経路が残るか、
どのRecovery経路が残るか、
次の外乱へ対応する余地が残るか
まで含めて評価しなければならない。
40.単一最適解ではなく複数の実行可能経路を保持する課題
現実の開放環境では、外部条件が継続的に変化するため、一つの固定された冷却経路だけに依存すると、その経路が成立しなくなった時点で要求状態全体が崩壊する可能性がある。
したがって、可能であれば複数の独立又は部分的に独立した状態形成経路を保持し、外部条件及び内部状態に応じて使用可能な経路を切り替える必要がある。
これは単なるredundancyではない。
ある時点では放射経路が有効であり、別の時点では潜熱又はreservoir経路が有効となり、さらに別の条件では流体又は材料状態の再構成が必要となる可能性がある。
したがって、本研究では一つの「最強の冷却方式」を固定的に選択するのではなく、その時点の物理状態及び実行可能性境界に応じて成立可能な経路を選択できる物理系を構成する必要がある。
【解決すべき課題】第VI節の到達点
以上から、本研究は単純な冷却性能最大化問題ではない。
考え得る物理状態のうち、現在状態から実際に到達可能な状態は限定され、その境界は外部環境及び内部状態によって時間的に変化する。さらに、現在の操作そのものが将来の到達可能状態及び回復経路を変化させる。
したがって本研究では、
現在どの状態にあるのか、
次にどの状態が成立可能なのか、
どの遷移が最低5°C低温状態へ向かうのか、
どの遷移が要求状態を破壊するのか、
どの遷移が破局的状態へ向かうのか、
現在の操作後にもPersistence及びRecoveryの経路が残るのか
を時間発展する状態空間の中で取り扱う必要がある。
そして、ここまで定義して初めて次の問題が現れる。
要求状態へ到達可能な経路が存在しても、その状態が安定であるとは限らない。
微小な外乱から自然に回復する状態もあれば、一定の閾値を超えた瞬間に別の状態へ急激に遷移する状態も存在し得る。また、一度崩壊すると元の経路では戻れない場合もある。
【解決すべき課題】VII.非線形安定性、崩壊及び回復を解明する課題
最低5°C低温状態を一度形成できたとしても、その状態が安定して存在し続けるとは限らない。大規模な開放実環境では、温度、湿度、圧力、密度、流体、放射、材料、相、界面、地表・地下・水系、thermal reservoir、輸送経路その他が相互に結合し、しかもその結合関係自体が時間とともに変化する。このため、ある時点で要求状態が成立していても、その後の小さな外乱が減衰する場合もあれば、複数の相互作用を通じて増幅され、区域全体の状態崩壊へ発展する場合もある。
また、区域平均温度が一見安定していても、局所的な流体モード、湿度異常、放射状態、thermal reservoirの飽和、材料又は界面機能の低下等が内部で成長し、一定時間後に要求状態を失わせる可能性がある。したがって、Formationが成立したことと、Persistenceが成立したことは同義ではない。
本研究では、最低5°C低温状態について、どの条件で安定して存続し、どの条件から崩壊が開始し、崩壊がどの経路を通じて伝播し、どの時点までなら回復可能であり、さらに崩壊後にどの経路から要求状態を再形成できるかを明らかにする必要がある。
41.非線形安定性を解明する課題
対象区域では、温度、流体、湿度、放射、材料、相、界面その他が非線形に相互作用する。このため、微小外乱に対する線形安定性だけを確認しても、実環境での安定性を保証することはできない。
実環境では、突風、急激な日射変化、雲量変化、降雨、湿度急変、人工排熱、材料状態変化、相転移、界面性能変化、外部高温大気の侵入その他、有限振幅の外乱が発生する。
さらに、一つ一つは弱い変動であっても、
風速変化
→ 高温大気侵入
→ 湿度変化
→ 放射条件変化
→ 材料又は界面応答変化
→ さらに熱流入増大
のように複数の弱い外乱が連結されることで、一つの大きな状態遷移へ発展する場合がある。
したがって本研究では、線形安定性だけではなく、有限振幅外乱に対して要求状態がどの範囲まで維持されるか、どの条件から別の状態へ遷移するか、複数の外乱がどのような組合せで崩壊条件を形成するかを解明する必要がある。
さらに、本研究で特に重要なのは、人工的に形成した最低5°C低温状態そのものが新たな大気・流体条件を生成することである。したがって安定性解析は、介入前の環境へ外乱を加えるだけでは不十分であり、介入によって形成された新しい温度・圧力・湿度・流体場の内部安定性まで評価しなければならない。
42.Critical Modeを同定する課題
要求状態を破壊する全ての変動が同じ重要度を持つわけではない。
温度場、流体場、湿度場、放射場、材料状態その他には、多数の空間・時間モードが存在する。その中には要求状態へほとんど影響しない変動もあれば、一度成長すると区域全体の状態を急速に変化させる支配的モードが存在し得る。
例えば、局所的な高温領域そのものが問題なのではなく、その高温領域が周囲との圧力差を生み、新しい流体経路を形成し、その経路を介して大量の高温大気を区域内へ侵入させるなら、その流体モードこそがCritical Modeとなる。
同様に、ある一つのthermal reservoirの容量低下が、別のreservoirへ負荷を転送し、その転送がさらに別の輸送系を過負荷へ導くなら、温度そのものではなくreservoir間結合がCritical Modeとなる可能性がある。
したがって、本研究では、単に異常値を検出するのではなく、どの空間構造、流体構造、熱輸送構造又は状態遷移系列が要求状態のPersistenceを支配しているかを同定する必要がある。
43.Failure Horizonを同定する課題
要求状態からの逸脱が観測された後に対応すれば必ず回復できるとは限らない。
状態崩壊が進行する過程では、利用可能なthermal reservoir、材料相、界面機能、流体経路、物質資源、回復用エネルギーその他が失われ、Recovery Pathが時間とともに減少する可能性がある。
したがって、現在状態からどの程度先まで要求状態のPersistenceが物理的に可能であるか、またどの時点を越えると回復可能な経路が急速に縮小又は消失するかを把握する必要がある。
この「まだ要求状態は崩壊していないが、そこを越えると回復不能又は著しく困難になる境界」をFailure Horizonとして扱う。
Failure Horizonの重要性は、Collapseが完成してから対処するのではなく、崩壊がまだ観測上小さい段階で状態遷移を変更できる点にある。共有ドラフトでも、failure horizonへ到達する前に状態遷移を変更することが明示されています。
したがって、本研究ではFailure Horizonを単なる予測時間としてではなく、
どの状態自由度が失われつつあるか、
どのRecovery Pathが消失しつつあるか、
どの物理資源が限界へ接近しているか、
を含む時間的実行可能性境界として把握する必要がある。
44.Collapse Propagationを解明する課題
局所的な状態破壊が局所に留まるとは限らない。
例えば、対象区域の一部へ高温大気が侵入し、その領域の温度、密度及び圧力状態が変化すると、新たな流体経路及び乱流構造が形成される可能性がある。その経路が隣接領域へ接続されれば、高温状態は別領域へ伝播し、さらに別の流体構造を形成する。
同様に、
thermal reservoirの飽和
→ 他reservoirへの負荷転送
→ 他reservoirの飽和
→ 蓄熱経路喪失
材料状態変化
→ 界面性能低下
→ 熱流入増大
→ 材料温度上昇
→ さらなる性能低下
といった連鎖も成立し得る。
したがって、Collapseを個々の装置、材料又は区域要素の故障としてだけ扱うことはできない。局所的状態変化が、熱・放射・流体・物質・界面及びreservoir networkを介してどのように伝播し、区域全体の状態Collapseへ接続するかを解明する必要がある。
さらに、ここでは前章で扱った破局的大気状態との接続も必要である。
局所的な人工温度・圧力場の異常が大規模な流体モードへ成長し、巨大ハリケーン、超大型暴風、極端豪雨、洪水、干ばつその他、人類社会に致命的な損害を与え得る気象状態へ接続する危険性は排除できない。
したがって、Collapse Propagationの評価対象は「5°C状態が失われるか」だけではなく、「崩壊過程がより大きな破局的物理状態へ接続しないか」まで含める必要がある。
45.Collapse Containmentを成立させる課題
Collapse Propagationが存在する以上、全ての崩壊を完全に防止できることを前提にはできない。
したがって、局所的な逸脱又は故障が発生した場合に、その影響を一定領域へ閉じ込め、区域全体又はより大きな環境系へ伝播させない構造を形成する必要がある。
例えば、一つのthermal reservoirが飽和した場合に他reservoirへ無制限に負荷が転送されるのではなく、一定条件で輸送経路を切替え又は遮断することが考えられる。同様に、局所的な流体不安定性が形成された場合に、その流体経路を変更し、別領域への伝播を抑制する必要があり得る。
したがって、本研究ではCollapseの発生確率を下げるだけではなく、Collapseが発生した場合にその空間的・時間的伝播範囲を限定するContainment条件を解明する必要がある。
これは特に、対象区域の低温状態を守るためだけでなく、対象区域外へ危険な状態を伝播させないためにも必要となる。
46.Recovery Pathを保持する課題
要求状態から逸脱した場合、単純に冷却能力を増大させれば元の状態へ戻れるとは限らない。
Collapse過程では、材料相、界面、thermal reservoir、湿度分布、流体構造、輸送経路、地表又は水系状態その他がFormation時とは異なる状態へ移行している可能性がある。
したがって、Formation時に利用した経路がRecovery時にも利用可能であるとは限らない。
例えば、Formation時にはあるthermal reservoirへ熱を移送できたとしても、Collapse後にはそのreservoirが飽和している可能性がある。ある界面状態を利用して熱輸送を制御していた場合でも、外乱によって界面状態が失われているかもしれない。流体経路そのものが再構成されていれば、初期状態と同じ操作を行っても別の結果になる可能性がある。
したがって本研究では、要求状態を維持している間から、状態逸脱後に利用可能な複数のRecovery Pathを保持する必要がある。
47.Recovery Propagationを成立させる課題
Collapseが局所から全体へ伝播し得るのであれば、Recoveryについても局所的回復を全体状態へ伝播させる必要がある。
一部領域を回復しても、その周囲が不安定状態のままであれば、再びCollapseが侵入する可能性がある。
したがって、Recoveryを一点又は単一装置の復旧として扱うのではなく、
安定領域の形成
→ 隣接領域への安定状態伝播
→ 輸送経路再形成
→ reservoir・材料・界面状態回復
→ 区域全体の要求状態再形成
という空間的・時間的伝播現象として扱う必要がある。
Ken理論™のEIA-XIでも、CollapseとRecoveryは局所的・離散的事象ではなく、drift、diffusion、geometry及びmulti-field couplingを介して伝播するfield-theoretic phenomenonとして記述されています。
本研究では、この理論をそのまま既成事実として当てはめるのではなく、実際の熱・流体・物質・放射場において、どの物理量がRecovery Frontを形成し、どの経路に沿って回復が伝播し、どの条件で回復frontが停止又は逆転するかを検証する必要がある。
48.Future-option Preservationを成立させる課題
ある操作が現在時点で最も大きな温度低下を形成するとしても、その操作によって将来利用可能な状態又はRecovery Pathを失わせるなら、長期的には最適ではない。
例えば、
有限reservoirを完全に消費する、
不可逆相転移を発生させる、
特定輸送経路を閉鎖する、
回復用物質を消費する、
材料寿命を急激に低下させる、
ことによって現在の要求状態を維持できても、次の外乱後に回復不能となる可能性がある。
したがって本研究では、現在の温度状態だけではなく、各操作後に残される将来状態及びRecovery Pathの集合を評価する必要がある。これは共有ドラフトに明示されたFuture-option Preservationそのものです。
すなわち、本研究における最適な操作とは、現在もっとも強い冷却を行う操作ではなく、
現在の要求状態を成立させながら、
将来のPersistenceを保持し、
Recovery Pathを残し、
破局的状態への遷移可能性を増加させない操作
である必要がある。
49.Persistence、Recoverability及びContinuityを統合する課題
PersistenceとRecoverabilityは独立した性能指標ではない。
強いPersistenceを得るために全てのreservoir又は資源を使用すればRecovery能力が失われる可能性がある。一方で、Recovery余力を過度に温存すれば現在のPersistenceが不十分となる場合もある。
したがって、
Formation
→ Persistence
→ Perturbation
→ Deviation
→ Recovery
→ Persistence
という一連の時間発展を一つの循環として扱い、各段階において次の状態へ移行可能な物理経路を保持する必要がある。
共有ドラフトでは、Continuityを単なる連続運転時間ではなく、異なる外乱及び状態変化を経ても最低5°C低温状態を再形成し続ける能力が失われないこととして定義しています。
したがって本研究におけるContinuityとは、
「状態が一度も乱れないこと」
ではない。
外乱が発生し、
一時的な逸脱が生じ、
一部の物理構造が失われても、
要求状態へ戻る経路を保持し続けることこそがContinuityとなる。
【解決すべき課題】第VII節の到達点
以上から、本研究において最低5°C低温状態は、単に安定な静的平衡点として存在すればよいものではない。
要求状態は有限振幅外乱に耐え、Critical Modeの成長を検出し、Failure Horizonへ到達する前に状態遷移を変更し、局所CollapseをContainmentし、Collapse後にもRecovery Pathを保持し、必要に応じてRecoveryを空間的に伝播させ、さらに将来利用可能な物理状態及びRecovery Pathを失わない動的状態として成立しなければならない。
すなわち、本研究で解くべき安定性問題は、
Formation
→ Stability
→ Persistence
→ Perturbation
→ Collapse Avoidance / Containment
→ Recovery
→ Re-Persistence
→ Future-option Preservation
を一つの時間発展する物理系として成立させることである。
そして、これを実際の環境で成立させるためには、物理系が現在どの状態にあり、どのCritical Modeが成長し、Failure Horizonまでどれだけ余裕があり、どのRecovery Pathが現在利用可能なのかを把握できなければならない。
【解決すべき課題】VIII.観測、状態推定及び実時間物理状態再構成の課題
前節までに示したように、本研究が対象とする物理系は、単一の温度値だけによって状態を記述できるものではない。要求される最低5°C低温状態のFormation、Persistence、Recoverability及びContinuityは、温度、湿度、圧力、密度、風速・風向、乱流、放射、地表・地下・水系、材料物性、相状態、界面状態、thermal reservoir、熱・物質・運動量輸送経路、動的境界その他、多数の状態が相互作用することによって成立する。
さらに、これらの状態の全てを直接測定できるわけではない。現在の区域平均温度が要求値を満たしていても、地下への蓄熱が限界へ接近している、thermal reservoirが飽和しつつある、材料又は界面機能が失われつつある、外部高温大気の侵入経路となる乱流構造が成長している、Recovery Pathが消失しつつある等、表面上の温度値からは直ちに観測できない内部状態が存在し得る。
したがって、本研究では「温度を測定すること」と「物理系の状態を認識すること」を明確に区別しなければならない。必要なのは、観測可能な物理量から、現在の実状態、直接観測できない内部状態、将来成立可能な状態及び状態遷移までを継続的に再構成することである。
50.三次元Physical Fieldを観測・再構成する課題
対象区域について最低5°C低温状態が成立しているかを判定するためには、単一地点又は少数地点の温度測定だけでは不十分である。
対象区域内には、温度場、湿度場、圧力・密度場、流速場、乱流場、放射場その他の空間的不均一性が存在し、その状態は時間的にも変化する。さらに、地表、地下、水体、建築物、植生その他との交換も同時に発生する。
したがって、必要となるのは、対象区域を多数の独立した測定点として扱うことではなく、観測値と物理法則を組み合わせて、対象区域及びその周辺に成立している三次元Physical Fieldを時間発展する状態場として再構成することである。
ここでは、全ての物理量を全地点で直接測定する必要はない。むしろ、
直接測定すべき状態、
観測値から推定可能な状態、
要求状態の判定に不要な状態、
Collapse又はRecoveryの予測上不可欠な状態
を区別し、要求状態の成立性を判定するために必要な最小かつ十分な観測・状態再構成系を構成する必要がある。
また、観測されていない領域についても、大気力学、熱輸送、放射、物質輸送、境界条件その他の物理法則と整合した状態場として再構成しなければならない。観測値が更新されれば、その状態推定も継続的に修正される必要がある。
51.Hidden Physical Stateを推定する課題
本研究において特に重要なのは、現在直接観測できない状態が、将来のPersistence、Collapse又はRecoveryを支配し得ることである。
例えば、地下又は建築構造内部への蓄熱量、材料内部の相分率、thermal reservoirの残容量、界面性能、局所的な水分状態、特定の乱流構造、上空又は風上から侵入しつつある大気状態、将来使用可能な熱輸送経路その他は、区域平均温度のみから直ちに把握できない。
しかし、これらのhidden stateが限界へ近づけば、区域平均温度がまだ最低5°C条件を満たしていても、実際にはPersistenceを失う直前である可能性がある。
したがって、本研究では、
観測可能なPhysical State
+
状態発展モデル
+
物理的保存則及び境界条件
+
履歴情報
から、現在直接観測されていないが将来状態を決定するHidden Physical Stateを推定する必要がある。
52.Critical Mode、Failure Horizon及びRecovery Pathを実時間で推定する課題
観測及び状態推定の目的は、現在の状態を表示することだけではない。
本研究で必要なのは、
どのCritical Modeが成長しているのか、
どの局所状態がCollapse Propagationの起点となり得るのか、
Failure Horizonまでどの程度の余裕が存在するのか、
どのRecovery Pathが現在利用可能なのか、
どのRecovery Pathが失われつつあるのか、
どの将来状態が新たに到達可能又は到達不能となったのか
を継続的に把握することである。
特にFailure Horizonは、単なる「故障までの残り時間」ではない。現在の材料状態、流体状態、境界状態、reservoir状態及び輸送構造の下で、要求された物理状態を維持又は回復できる実行可能領域がどこまで先へ延びているかという時間的境界である。
したがって観測系は、temperature monitoring systemとしてではなく、状態空間、Admissibility Boundary、Critical Mode、Failure Horizon及びRecovery Pathを実時間で再構成するPhysical-State Monitoring Systemとして成立させる必要がある。
53.非介入Counterfactual Fieldを再構成する課題
本研究で最低5°C低下を実証するためには、介入後の現実温度場だけではなく、同一又は物理的に対応する条件において、介入が存在しなかった場合に成立したと推定される基準状態が必要となる。
しかし、現実世界では、同一地点・同一時刻について、
「介入した世界」
と
「介入しなかった世界」
を同時に直接観測することはできない。
したがって、周辺観測、気象状態、過去データ、対照領域、物理モデル、状態推定その他を利用して、介入が存在しなかった場合に成立したと推定される三次元大気状態をCounterfactual Fieldとして再構成する必要がある。
このCounterfactual Fieldは、単なる統計的な平均気温ではない。現実の介入時と可能な限り対応する外部気象条件、太陽放射、風況、湿度、雲量、地表・水系・建築物状態その他を保持しながら、「当該介入だけが存在しなかった場合」の物理状態を推定する必要がある。
これによって初めて、
自然に5°C低下したのか、
気象変動によって低温化したのか、
対象物理系によって最低5°C低下が形成されたのか
を物理的に区別することができる。
したがって、Counterfactual Fieldの再構成精度及び不確実性評価は、本研究の成果そのものの反証可能性を支える重要な条件となる。
54.実時間State Updatingを成立させる課題
対象区域及び外部環境は常に変化するため、一度構築した状態モデル、状態空間又はAdmissibility Boundaryを固定したまま使用することはできない。
必要なのは、
観測
→ 状態再構成
→ Hidden Physical State推定
→ 将来状態候補生成
→ Reachability・Executability・Admissibility評価
→ 物理実行
→ 実状態変化
→ 再観測
→ 状態空間及び境界更新
という閉ループを継続的に成立させることである。
重要なのは、予測と現実が一致しなかった場合、その差を単なるprediction errorとして廃棄しないことである。
予測との差は、
想定していなかった熱流経路、
未知又は未推定の流体構造、
材料又は界面状態変化、
誤って推定されたreservoir容量、
外部境界条件の変化、
新たな状態遷移
が存在することを示す物理情報である可能性がある。
したがって、その差を新しい状態情報として取り込み、状態空間、Critical Mode、Failure Horizon、Recovery Path及びAdmissibility Boundaryを更新する必要がある。
55.現実状態と相互更新される時間発展型物理状態写像を構成する課題
前記の三次元Physical Fieldの観測・再構成、Hidden Physical Stateの推定、Critical Mode、Failure Horizon及びRecovery Pathの実時間推定、非介入Counterfactual Fieldの再構成並びにState Updatingを、それぞれ独立した処理として実施するだけでは、本研究が対象とする時間発展型の結合非平衡開放系について、その全体状態を一貫して把握することはできない。
本研究が対象とする物理系では、temperature field、humidity field、pressure-density field、velocity field、turbulent field、radiative fieldその他の大気状態だけでなく、material state、phase state、interface state、boundary state、reservoir state、surface-ground-water state、transport pathwayその他の状態が相互に結合し、その一つの変化が別の状態、輸送経路、境界条件及び将来の状態遷移可能性を変更する。さらに、現在直接観測されていないHidden Physical Stateが、要求状態のPersistence、Collapse又はRecoverabilityを支配する場合があり、現在の観測値だけから全体系の成立性を判断することはできない。
したがって、必要となるのは、対象区域及びこれと物理的に接続された周辺環境について、観測された現実状態、推定された内部状態、利用可能な物理資源、熱・放射・物質・運動量の輸送経路及び境界条件を、一つの時間発展する物理状態として相互に関連付けて記述できる状態写像を構成することである。
この物理状態写像は、単に対象区域、建築物、設備又は地形の形状をデジタル空間へ再現するものではない。また、現在時刻における温度、風速、湿度その他の観測値を表示する静的な状態記録でもない。要求されるのは、現実の物理系の変化に応じて自身の状態表現を継続的に更新し、現在成立している状態だけでなく、現在状態から次に成立可能な物理状態及び状態遷移までを再構成できる時間発展型の物理状態写像である。
具体的には、当該写像において、現在のPhysical Field、Hidden Physical State、材料・相・界面状態、thermal reservoirの利用可能容量、熱・放射・物質・運動量の輸送構造、動的境界その他を関連付け、現在状態から最低5°C低温状態へ至る状態遷移、要求状態を維持する状態遷移、要求状態から逸脱させる状態遷移、Collapseへ接続する状態遷移及びRecoveryに利用可能な状態遷移を、それぞれ区別して記述できる必要がある。
さらに、当該物理状態写像は固定された状態空間を前提としてはならない。材料物性、相状態、界面状態、外部気象条件、thermal reservoir、地表・地下・水系の状態、利用可能エネルギー、物質量、輸送経路その他が変化すれば、それまで成立可能であった状態が成立不能となり、逆にそれまで成立不能であった状態が新たに成立可能となる場合がある。このため、現在成立可能な状態集合、Reachability、Executability、Admissibility及びRecovery Pathについても、現実状態の変化に応じて更新できなければならない。
また、実際に選択した物理作用を実行した後には、予測された状態と現実に観測された状態が一致するとは限らない。その差異は単なる誤差として廃棄されるべきものではなく、未認識の熱流経路、未推定の流体構造、材料又は界面状態の変化、reservoir容量の誤推定、外部境界条件の変化、新たなcoupling又は状態遷移が存在することを示す物理情報となり得る。
したがって、
観測
→ 状態再構成
→ Hidden Physical State推定
→ 将来状態候補生成
→ Reachability・Executability・Admissibility評価
→ 物理実行
→ 現実状態変化
→ 再観測
→ 状態写像及び状態遷移構造の更新
という閉ループを成立させ、予測と現実との差を次の状態認識へ反映させる必要がある。
特に重要なのは、この時間発展型物理状態写像が、現在の要求状態を再現するだけではなく、Critical Modeの成長、Failure Horizonへの接近、Collapse Propagationの開始、Recovery Pathの減少又は消失その他、要求状態が将来失われる前兆を記述できることである。
区域平均大気温度が依然として最低5°C低下条件を満たしていたとしても、内部でthermal reservoirが飽和へ接近し、界面機能が失われ、外部高温大気の侵入経路が成長し、利用可能なRecovery Pathが消失しつつあるならば、その物理系は現在の温度値だけを見れば成立していても、Continuityの観点では既に崩壊過程へ入っている可能性がある。
したがって、当該物理状態写像には、
現在何が成立しているか、
現在直接観測されていない何が成立しているか、
次にどの物理状態が成立可能であるか、
どの状態遷移が最低5°C低温状態のFormationへ接続するか、
どの状態遷移がPersistenceを成立させるか、
どの状態遷移がCollapseへ接続するか、
どの状態遷移が人類社会に致命的な損害を与え得る破局的状態へ接続し得るか、
どのRecovery Pathが現在利用可能であるか、
どのRecovery Pathが失われつつあるか、
現在の操作によって将来の実行可能状態及び回復可能状態がどのように変化するか、
を、一つの時間発展する物理状態構造として記述できることが要求される。
さらに、当該写像は非介入Counterfactual Fieldとも接続されなければならない。すなわち、現実に介入されたPhysical Fieldだけを再構成するのではなく、対応する外部条件の下で介入が存在しなかった場合に成立したと推定されるCounterfactual Fieldとの比較を継続的に行い、観測された温度変化、流体変化、放射変化その他が自然変動によるものか、当該物理介入によって形成されたものかを区別できる必要がある。
この点は、最低5°C低下の検証だけでなく、物理操作そのものの因果効果を評価するためにも不可欠である。介入後に要求状態が成立したとしても、その変化が外部気象条件によって自然に形成されたものなのか、選択された物理操作によって形成されたものなのかを区別できなければ、状態遷移の因果関係を次の実行へ利用することができない。
また、この物理状態写像は対象区域内部だけを閉じた系として扱ってはならない。前節までに示したように、対象区域から除去された熱、反射又は吸収された放射、移送された物質及び運動量は、対象区域外へ伝播し得る。したがって、必要に応じてsystem boundaryを周辺大気、地表、地下、水系、上層大気及び地球―宇宙間のエネルギー交換まで拡張し、対象区域における成功がより大きな物理系における熱負荷、流体不安定性又は破局的状態を形成していないかを追跡できる構造とする必要がある。
以上から、本課題は、対象区域の現実を単に複製又は可視化するモデルを構築することではない。必要なのは、現実の観測状態、Hidden Physical State、Counterfactual Field、物理資源、輸送経路、動的境界、Critical Mode、Failure Horizon、Recovery Path及び将来成立可能な状態遷移を、現実世界との継続的な相互更新の中で一体として再構成する時間発展型物理状態写像を成立させることである。
そして、この時間発展型物理状態写像によって、Formation、Persistence、Recoverability及びContinuityを、現在の温度値だけではなく、現在状態から将来状態へ至る物理的可能性及び状態遷移構造まで含めて観測・推定・検証可能とすることが、本研究における重要な解決課題となる。
第5章 課題を解決するための手段
5.1 本研究にKen理論™を適用する理由
前章までに示したように、本研究が対象とする最低5°C低温状態の形成問題は、単純な冷却能力の最大化問題ではない。対象区域は熱、放射、流体、物質、運動量、材料、相、界面、地表、地下、水系、大気及び地球―宇宙間のエネルギー交換へ連続する開放系であり、さらに対象区域を低温化する操作そのものが密度、圧力、浮力、流体場、水蒸気輸送、放射状態、材料状態及び将来利用可能な物理経路を変化させる。
したがって、現在の物理系を固定したまま、その内部で冷却出力だけを増加させればよいとは限らない。現在のboundary、material state、phase state、interface state、radiative pathway、fluid pathway、thermal reservoirその他を固定した状態では、最低5°C低温状態がそもそも現在の実行可能状態集合に含まれない場合がある。その場合に必要となるのは、既存trajectoryの延長上でより大きな冷却作用を与えることではなく、要求状態が成立可能となるように、物理状態、境界、輸送経路及び状態遷移可能性そのものを再構成することである。
本研究では、この問題を取り扱うための理論的・技術的基盤としてKen理論™(Ken Theory)を適用する。
Ken理論™では、物理的又は数学的に想定可能な全状態を等価な候補として扱わない。現在状態、境界条件、熱力学的制約、利用可能エネルギー及び物質、材料・相・界面状態、輸送構造その他の条件下で、どの状態が成立可能であり、どの状態遷移が実際に到達可能であり、どの遷移が実行可能であり、さらにその実行後にもPersistence、Recoverability及びContinuityを保持できるかを区別する。Ken理論™のExecution Intelligenceでは、persistenceを未来候補の生成ではなく、collapse-inducing continuationを除去し、admissibility corridorを残し、residualから状態を再構成するsubtractive processとして扱っている。
したがって、本研究における中心的な問いも、「何を追加すればより強く冷却できるか」だけではない。
どの高温化経路を成立不能とするか、どの熱流入経路を閉じるか、どの輸送経路を変更するか、どの低温状態を成立可能なfutureとして残すか、どの破局的状態への遷移を候補段階で排除するか、そして外乱後にもどのRecovery Pathを残すか、というsubtractiveな状態形成問題として取り扱う。
5.2 Continuityを前提とせず、成立条件として扱う
Ken理論™の重要な特徴の一つは、continuityを最初から与えられた物理的前提として扱わないことである。
古典力学、電磁気学、一般相対論その他の連続体記述は、微分可能な状態、連続したtrajectory、定義可能な中間状態及び連続した背景geometryを前提として高い予測力を達成してきた。一方、Ken理論™では、continuityそのものがどの条件で成立し、どの条件で崩壊し、どのように再形成されるかを一段上位の問題として扱う。EIA-IVでは、その構造をResiduals → Admissibility → Closure → Execution → Persistence → Projection → Continuityの七層として整理し、continuityは生成・維持・回復される結果であって、原始的前提ではないと位置付けている。
この考え方は、Ken理論™における一般相対論及びアインシュタインの特異点問題の再構成にも表れている。
一般相対論は、既に成立したsmooth spacetime manifoldの内部でenergy-momentumとcurvatureの関係を記述する。一方、Ken理論™は、それより前段の「なぜそのcontinuous spacetimeそのものが成立し続けるのか」を問題とする。EIA-IではEinsteinian geometryをNakashima–Landauer Quotient(NLQ)によって選択されるmacroscopic fixed pointとして捉え、「spacetime is not assumed; it is selected」と整理している。
EIA-IVではさらに、black-hole interiorにおけるsingularityを単なる極端なcurvature divergenceとしてではなく、admissibility、persistence kernel及びprojectionが成立しなくなるcontinuity collapseとして再構成している。すなわち、特異点問題を「連続geometryの内部で無限大をどう処理するか」という問題に限定せず、そもそもcontinuityを成立させる条件が失われる境界として扱っている。
今回の研究は、宇宙論的singularityそのものを扱うものではない。しかし、この理論的転換は重要である。
最低5°C低温状態についても、既存のthermal trajectoryを固定したまま「現在温度から連続的に5°C下げる」ことだけを考えるのではなく、要求状態そのものが現在のboundary及びconstraint structureの下で成立可能かを先に問う必要がある。成立不能であれば、trajectoryをさらに強く駆動するのではなく、要求状態を可能にするclosure及びadmissibility structureそのものを再構成する。
5.3 Nakashima–Landauer Geometric Bound(NLGB)による熱力学的実行可能性の評価
本研究では、最低5°C低温状態を成立させるために必要な物理操作を、エネルギー的に無制約な操作として扱わない。
Ken理論™のEIA-Iでは、Nakashima–Landauer Geometric Bound(NLGB)を、non-admissible futureを除去するために必要なgeometric workの下限として定義し、future eliminationには不可逆な物理的コストが伴うとする。NLGBではheatをsubtractive executionのphysical residueとして、entropyをsurvival pressureとして再解釈し、future manifoldの幾何学的剪定と巨視的thermodynamicsを接続する。
これは、本研究において特に重要である。
例えば、最低5°C状態を形成するために、
高温化へ向かう熱流路を遮断する、
特定のmaterial phaseを切り替える、
thermal reservoirを利用する、
放射経路を変更する、
大気流を再構成する、
特定の状態遷移を成立不能にする、
場合、それらは単に「冷却効果」を生むだけではない。境界の変更、状態集合の縮約、不可逆過程、散逸、材料変化その他の物理的コストを伴う。
したがって本研究では、要求状態へ向かう各candidate physical transitionについて、温度低下量だけでなく、その遷移を成立させるために必要なenergy、dissipation、material consumption、boundary rewriting及び将来状態の除去に伴う物理的コストを評価しなければならない。
EIA-IIではNLGBを静的thermodynamic constantとしてではなく、local topology、curvature、thermal gradient、stress distribution、role density、admissibility corridor width等によって変化するdynamic metabolic boundaryとして扱っている。
この構造を本研究へ適用すれば、ある冷却操作が「常に実行可能」であるとは扱わない。
同じ操作でも、現在の温度場、材料状態、thermal reservoir、流体状態、日射条件、水分状態その他が変化すれば、その操作を許容できる熱力学的境界も変化する。したがって、本研究ではNLGBに対応するthermodynamic admissibility boundaryを時間発展する境界として扱い、現在状態ごとにcandidate transitionの物理的実行可能性を再評価する。
5.4 Nakashima–Landauer Quotient(NLQ)による実行可能futureの選択
NLGBがnon-admissible futureの除去に必要なgeometric workを規定するのに対し、Nakashima–Landauer Quotient(NLQ)は、admissible future manifoldとnon-admissible future manifoldの間のprojection structureを定義する。
EIA-Iでは、初期future manifoldをadmissible及びnon-admissibleに分け、実行されるfutureをMexec=Minitial∖Mnon−admissible
というsubtractive operationによって構成する。さらにNLQは、admissible manifoldとnon-admissible manifoldのselection ratioをprojection quotientとして定義し、continuityを選択されたpersistence corridorとして構成する。
本研究では、この構造を最低5°C温度状態形成へ適用する。
まず、現在のPhysical Field及びHidden Physical Stateから、成立し得るcandidate physical states及びcandidate physical transitionsを構成する。
その中には、
要求される最低5°C低温状態へ近づくtransition、
一時的には冷却するがPersistenceを失わせるtransition、
thermal reservoirを使い切るtransition、
別区域へ巨大な排熱を移すtransition、
Recovery Pathを消失させるtransition、
高温状態へ復帰させるtransition、
人工的温度・圧力勾配を増大させるtransition、
破局的大気状態へ接続し得るtransition、
が同時に含まれ得る。
したがって、candidate stateを単純な温度低下量によって順位付けすることはしない。
現在状態及び動的boundaryの下で、要求状態のFormation、Persistence、Recoverability及びContinuityを同時に満たすfutureだけをadmissible manifoldとして残し、それ以外をnon-admissible manifoldとして除去する。
この意味でNLQは、本研究における「どれだけ冷やせるか」ではなく、「どのphysical futureを現実へ投影してよいか」を決定する選択構造として用いる。
5.5 動的境界そのものを実行対象とする
本研究ではboundary conditionを固定値として扱わない。
通常の熱・流体解析では、governing equationsに対してinitial conditions及びboundary conditionsを与え、その内部でtemperature field、velocity fieldその他を解く。しかし、本研究では、そのboundary condition自体が要求状態を成立させるための実行対象となる。
EIA-IIでは、energy、heat、topology及びruntime continuityを別々のengineering domainとして扱わず、同一admissibility geometryの中でco-definedされるものとして扱う。また、NLGB/NLQをdynamic metabolic boundary conditionsとして位置付け、そのboundaryをlocal topology、thermal gradient、mechanical stressその他に応じて継続的に更新する。
EIA-IIIではさらに、fixed pointsを静的に存在する点ではなく、admissibility projectionとcollapse dynamicsによって動的に維持される構造として扱い、matterそのものをstabilized admissibility-collapse fixed pointとして再構成している。
この構造を本研究へ適用する場合、
地表境界、
地下境界、
水系境界、
material interface、
phase boundary、
radiative boundary、
fluid boundary、
thermal reservoir boundary、
対象区域と周辺大気とのexchange boundary、
を固定された条件としてのみ扱わない。
現在のPhysical Fieldと要求状態との差に応じて、どのboundaryを変更すべきか、どのboundaryを維持すべきか、どのboundaryを開く又は閉じるべきかを候補として生成し、その変更後に成立可能となるstate spaceそのものを再計算する。
すなわち、本研究におけるdynamic boundary controlは、固定された空間の内部でtemperature trajectoryを制御することではなく、要求状態が成立可能となる物理的state spaceそのものを再構成するための手段として用いる。
5.6 非Hermitian Exceptional PointをCollapse及び状態再構成の境界として扱う
Ken理論™ではnon-Hermitian physics及びExceptional Point(EP)を、単なる特殊な量子・光学現象として扱わない。
EIA-Iでは、EP ignitionを、連続的なHamiltonian evolutionが維持できなくなり、quotient-space rewriting及びadmissibility reconstructionが必要となるcollapse boundaryとして位置付けている。non-Hermitian instabilityによって特定のequivalence classが不安定化した場合、non-admissible classはkernelへ除去され、admissibleなclassだけがpersistence corridorへ再配置される。
EIA-IVでも、non-Hermitian relaxation operator、EP coalescence、Jordan block formation及びadmissibility rewritingを、continuity restorationまで含む一つのoperational mechanismとして統合している。
本研究では、これを特定の量子材料又は光学装置を必須とする意味では使用しない。
重要なのは、最低5°C低温状態の形成・維持過程において、現在支配的な状態又はmodeが連続的に維持できなくなるcritical boundaryが存在し得ることである。
例えば、
thermal reservoir saturation、
phase transition、
interface failure、
flow instability、
radiative mode change、
strong humidity transition、
collapse of a heat-transfer pathway、
によって、系の支配modeそのものが切り替わる場合がある。
このようなcollapse-near regimeでは、単純なlinear extrapolationによって次状態を予測するのではなく、Critical Mode、Failure Horizon及びmode structureの再構成を行い、continuityを維持できないbranchを除去して、別のadmissible state structureへ移行する必要がある。
5.7 Collapse Filteringによって破局的futureを実行前に除去する
Execution Intelligenceの中核の一つは、危険なfutureが現実化した後に対処するのではなく、collapse-inducing futureを実行前に除去することである。
EIではcollapse filtering、admissibility corridors及びresidual-driven reprojectionをpersistenceを成立させる三つの中心operatorとしている。
本研究ではこの構造を安全性へ直接適用する。
candidate transitionの中に、
巨大な人工温度勾配を形成するtransition、
異常なpressure gradientを形成するtransition、
大量の水蒸気又は潜熱を不安定な形で集中させるtransition、
広域風系を再編するtransition、
別地域へ巨大な熱負荷を転嫁するtransition、
Recovery不能なmaterial/phase stateを形成するtransition、
が含まれる場合、それらが要求区域を一時的に5°C低下させるとしても、直ちに採用しない。
特に、巨大ハリケーン若しくはこれに類する熱帯低気圧、超大型暴風、極端豪雨、洪水、広域干ばつ、異常高温・異常低温、モンスーンその他の大規模循環の変位その他、人類社会に致命的な損害を与え得る破局的状態へ接続するfutureについては、Collapse Filteringの対象として実行前に除去する。
したがって本研究では、安全性を低温状態形成後に評価するsecondary constraintとはしない。
破局的futureがcandidate execution manifoldへ残ること自体をadmissibility failureとして扱い、そのfutureを物理的実行候補から除去する。
5.8 Formation、Persistence、Recoverability及びContinuityを一つのRuntimeとして構成する
本研究における最低5°C低温状態は、一回的な到達点ではない。
EIA-IVでは、Residuals、Admissibility、Closure、Execution、Persistence、Projection、Continuityを一つのruntime cycleとして扱う。
本研究ではこの構造を次のように適用する。
Residualsでは、予測と実状態との差、未認識heat-flow、fluid instability、reservoir depletion、material/phase/interface driftその他を取得する。
Admissibilityでは、現在状態から成立可能なcandidate physical states及びcandidate transitionsについて、thermal、material、fluid、radiative、安全性その他の制約を評価する。
Closureでは、最低5°C状態を成立させるために必要なboundary、transport pathway、reservoir、material/phase/interface conditionが閉じた実行構造を形成しているかを判定する。
Executionでは、選択されたphysical transitionを現実の物理系へ実行する。
Persistenceでは、形成された最低5°C状態が外乱、熱流入、流体交換その他の下でも維持可能かを評価する。
Projectionでは、実際に形成されたPhysical Field及び観測された区域状態として要求状態が現実化しているかを確認する。
Continuityでは、外乱及び状態逸脱後にもFormation、Persistence及びRecoveryを再実行できる物理経路が保持されているかを評価する。
このruntime cycleを継続的に反復することによって、最低5°C低温状態を「一度達成する」のではなく、形成・維持・回復可能な実行状態として成立させる。
5.9 Accessibility Dynamics、Geometry及びField Theoryによる将来状態の構成
EIA-VIII以降では、accessibilityをexistence、information、observation及びreachabilityとは異なる組織変数として定義し、その時間発展、geometry及びfield structureを順次構成している。
EIA-IXではaccessibilityをmagnitude、gradient、threshold、temporal memory及びfuture potentialを有するdynamic variableとして扱い、collapse、recovery、protected accessibility、future accessibilityその他のregimeを定義する。EIA-XではAccessibility Manifold、distance、geodesic、basin、kernel、curvature及びtopologyによって、どのfutureがどの構造を通じて参加可能となるかを記述する。
EIA-XIではさらにAccessibility Field Theoryとして、accessibilityをmanifold上のgeometric-dynamical fieldとして扱い、drift、diffusion、geometry potential、external input、multi-system coupling及びspectral stabilityを用いてcollapse/recovery modeを記述する。
本研究では、この構造を、単なる「経路が存在するか」というReachabilityの判定を超えて用いる。
最低5°C低温状態へ至るphysical pathwayが数学的に存在していても、現在のmaterial state、reservoir、boundary、flow conditionその他の下で実際に利用可能でなければ、その経路は本研究におけるaccessible pathではない。
したがって、どのthermal sinkが現在利用可能か、どのtransport pathwayが実際に機能しているか、どのRecovery Pathが残されているか、どのcandidate stateが将来も参加可能な状態として保持されるかをAccessibility Stateとして評価する。
また、Critical Mode及びCollapse Frontが形成された場合には、そのcollapseがどの方向へ伝播し、どのRecovery Frontをどの経路へ形成すれば要求状態を再構成できるかをfieldとして扱う。
5.10 Residual-Driven Reprojectionによる実時間再構成
本研究では、予測と現実との差を単なるmodel errorとして扱わない。
Execution Intelligenceではresidualを、continuity projectionが失敗しつつあること、新しいcollapse pressureが形成されたこと、又は現在のadmissibility structureでは説明できない状態が出現したことを示す情報として扱い、residual-driven reprojectionによって状態構造を再構成する。
したがって本研究では、
観測
→ Physical Field再構成
→ Hidden Physical State推定
→ candidate future生成
→ NLGB/NLQ及びAdmissibility評価
→ Collapse Filtering
→ physical execution
→ 実状態変化
→ residual取得
→ boundary・state space・accessibility・Recovery Path更新
というclosed loopを形成する。
このとき、予測との差が発生した場合には、
未知の熱流路、
新しいfluid mode、
material or interface transition、
誤推定されたreservoir capacity、
外部環境変化、
新しいcoupling、
未認識のcollapse precursor
として解析し、次のcandidate future及びAdmissibility Boundaryへ反映する。
したがって、本研究におけるPhysical Field Twinその他の状態写像は、現実世界を静的に複製するものではなく、Residualによって自らのstate space及びboundary structureを継続的に書き換える時間発展型physical mapとして構成する。
5.11 Future-option Preservationによる回復可能性の保持
Ken理論™では、現在のPersistenceだけを最大化することを最終目的としない。
EIA-VI以降ではcontinuityを、現在のmatter又はstateをそのまま保存することではなく、将来利用可能なexecutable future accessibilityを保持・再生成することとして扱う。
この考え方を本研究へ適用すると、現在の最低5°C状態を維持するために、
thermal reservoirを使い切る、
water resourceを不可逆に消費する、
材料相を回復不能にする、
interface stateを劣化させる、
別のRecovery Pathを閉じる、
ような操作は、短期的には成功してもContinuity上はadmissibleではない。
したがって、各physical executionについて、現在のtemperature reductionだけでなく、その操作後にどのthermal sink、material state、phase state、transport pathway、Recovery Path及びfuture accessibilityが残されるかを評価する。
要求状態のPersistenceと、将来のRecoverabilityを同時に保持することをFuture-option Preservationとして扱い、現在の成功によって将来の回復能力を失うtransitionを除去する。
5.12 本研究におけるKen理論™の統合的適用
以上を統合すると、本研究ではKen理論™を単なる分野横断的な整理概念として用いるのではない。
本研究の対象である最低5°C低温状態形成問題を、
- 現在Physical State及びHidden Physical Stateの再構成
- candidate physical states及びcandidate transitionsの生成
- NLGBによるthermodynamic executabilityの評価
- NLQによるadmissible / non-admissible futureの選別
- dynamic boundary及びtransport pathwayの再構成
- non-Hermitian collapse-near regime及びCritical Modeの認識
- Collapse Filteringによる高温化・回復不能化・破局的futureの除去
- admissibility corridorを通じたFormation Pathの形成
- Persistenceの維持
- Recovery Path及びFuture-optionの保持
- Accessibility Dynamics / Geometry / Fieldによる将来状態構造の評価
- Residual-driven reprojectionによるstate space、boundary及びfieldの更新
- Formation → Persistence → Perturbation → Recovery → Re-PersistenceのContinuity形成
という一つの実行構造として扱う。
このとき、熱力学、流体力学、大気科学、放射物理、材料科学、物性物理、界面科学、量子論、地球物理及び宇宙物理その他の既存科学は、それぞれの物理領域における法則及び状態方程式を提供する。
Ken理論™は、それらを置換するものではない。
本研究におけるKen理論™の役割は、それら既存科学によって許される膨大なphysical possibilityの中から、最低5°C低温状態を現実に形成し、維持し、外乱後にも回復し、かつ区域外又は地球系全体に同等以上の破局的状態を形成しないfutureを選択し、そのfutureが成立可能となるboundary、state、transport、material、phase及びinterface structureを実行可能な形へ再構成することにある。
したがって、本研究が求める解は、単一の冷却装置、単一の材料又は単一の制御則ではない。
要求状態を成立可能とするphysical future manifoldを形成し、そこからnon-admissible futureをsubtractiveに除去し、admissible corridorを現実の物理状態として実行し、その状態のPersistence、Recoverability及びContinuityを保ちながら、Residualによって実行構造そのものを継続的に更新する一つの結合非平衡開放系である。
なお、本章では、本研究に適用するKen理論™の公開済み理論原理及びその機能的対応関係を示すにとどめる。具体的な材料構成、装置構造、物理配置、実行アルゴリズム、閾値、coupling structureその他の実装技術には、別途知的財産化の対象となる技術が含まれるため、その詳細は本研究では開示しない。
第6章 温暖化対策の問題設定の再構成――排出削減から実世界状態形成へ
6.1 中間的介入量の操作から実世界状態形成問題への再構成
第1章で検討したように、既存の地球温暖化対策では、CO₂その他の温室効果ガス排出量、CO₂換算量、再生可能エネルギー導入量、炭素回収量その他の指標が、政策及び技術評価における主要な対象として用いられてきた。しかし、これらの多くは最終的な実世界温度状態そのものではなく、その状態へ至る因果過程の途中に位置する介入量又は中間指標である。CO₂排出量の削減、CO₂濃度の変化、放射強制力の変化、全球平均気温の変化及び特定の実環境における温度状態の変化は、それぞれ異なる物理量であり、一つの量を変更することが他の量の同程度の変更を直接意味するものではない。
したがって、温暖化対策を特定の中間変数をどの程度変更できたかという問題だけとして設定するのではなく、最終的に現実の物理空間において何を成立させるのかという側から問題を捉える必要がある。本研究では、大規模開放実環境について、対応する非介入状態より最低5°C低い温度状態を形成し、その状態を維持し、外乱によって逸脱した場合にも回復可能とし、さらにその成立可能性を継続的に保持することを要求している。この場合、出発点となるのは特定の介入手段ではなく要求される実世界状態であり、その状態の成立に必要な物理条件及び利用可能な物理作用を検討することになる。
この再構成は、CO₂削減その他の既存施策を否定又は排除するものではない。CO₂への介入も、熱、放射、流体、物質、材料、相、界面、地表、地下、水系その他への介入と同様に、要求状態へ影響を与え得る物理的介入の一つとして評価される。したがって、問題の中心は「特定の変数をどれだけ削減するか」だけではなく、**「現実の物理状態を要求された状態へ移行させ、その状態を成立させ続け、逸脱後にも再び成立可能とするためには何が必要か」**へ移ることになる。
6.2 単一操作変数からPhysical Degrees of Freedom全体への問題領域の拡張
第2章から第5章までの検討から明らかなように、大規模開放実環境の温度状態は単一の物理変数によって形成されるものではない。対象区域には、熱、短波・長波放射、流体運動、水蒸気その他の物質輸送、潜熱、材料物性、相状態、界面状態、地表・地下・水系、建築物その他の人工構造、重力下における密度及び浮力、大気境界層並びに地球―宇宙間の放射交換等が同時に作用している。
しかも、これらは独立した作用ではない。放射条件の変化は地表及び材料の温度状態を変化させ、それによって顕熱、潜熱、密度及び浮力が変化し、さらに流体運動及び物質輸送が変化する。材料の相状態又は界面状態の変化は、熱伝導、反射、吸収、放射、蒸発その他の物理過程を変更し、その結果として大気側に成立する状態も変化する。逆に、大気側の温度、湿度、圧力、放射及び流体状態の変化が材料、相及び界面状態へ作用する場合には、その接続は双方向となる。このため、個々の作用を独立した冷却技術として単純に加算するだけでは、区域全体に成立する温度状態を決定することはできない。
したがって、本研究では、要求状態の形成に関与し得るPhysical Degrees of Freedomを、既存の技術分類によってあらかじめ限定しない。 ただし、これは多数の物理作用を無差別に列挙又は組み合わせることを意味するものではない。必要なのは、最低5°C低温状態のFormation、Persistence、Recoverability及びContinuityに実際に関与し得る物理自由度を識別し、それらが異なる空間尺度、時間尺度及び物理階層を介してどのように同一の状態形成過程へ接続されるかを取り扱うことである。この意味で、問題は単一又は少数の操作変数を変更する問題から、要求状態を成立させるPhysical Degrees of Freedom及びその相互関係を扱う問題へ拡張される。
6.3 温度低下からFormation、Persistence、Recoverability及びContinuityを備えた要求状態形成への再構成
本研究では、対象区域の温度が一時的に対応する非介入状態より最低5°C低下することだけを最終的な解とはしない。第4章及び第5章で整理したように、要求状態にはFormation、Persistence、Recoverability及びContinuityという時間的条件が存在する。Formationは要求された低温状態そのものが現実に形成されること、Persistenceは形成された状態が外部及び内部条件の変化の下でも維持可能であること、Recoverabilityは要求状態から逸脱した場合にも要求状態へ復帰可能な物理的経路が存在すること、Continuityはこれらの成立可能性が時間発展する物理系の中で保持されることである。
この区別は、大規模開放実環境を対象とする場合に特に重要となる。例えば、有限のthermal reservoirを一度だけ利用して大きな温度低下を形成できても、その利用によってreservoirが枯渇し、同じ状態を維持又は再形成できなくなるならば、Formationが成立してもContinuityは成立しない。また、特定の材料状態、相状態又は界面状態によって強い冷却作用が得られたとしても、その状態変化によって利用可能なRecovery Pathが失われるのであれば、一時的な温度低下と継続的な要求状態成立を同一視することはできない。
さらに、PersistenceとRecoverabilityも同一ではない。外乱を受けない限り長時間維持できる状態であっても、一度その状態から逸脱すると復帰不能であればRecoverabilityは低い。逆に、一定の状態変動を許容しながら要求状態へ繰り返し復帰できる物理系は、瞬間的な温度安定性だけでは評価できない性質を有する。したがって、本研究における問題は「最低5°C低下を形成できるか」だけではなく、その状態を維持し、逸脱後にも回復し、さらに将来にわたってそのFormation、Persistence及びRecoverabilityを成立させ得る物理的可能性を保持できるかという時間発展問題として扱われる。
6.4 局所的温度低下からSystem-boundary Consistencyを備えた全体系問題への再構成
第2章で検討した巨大冷蔵庫方式は、対象区域を直接冷却するという最も原始的かつ直接的な発想を物理的帰結まで追跡することによって、局所的温度低下と物理系全体としての問題解決が同一ではないことを明確にする。対象区域から熱を除去しても、その熱自体が消滅するわけではない。冷凍機その他の熱移送系を用いる場合には、対象区域から除去された熱に、装置へ投入された仕事に相当するエネルギーが加わり、最終的には別の場所へ移送又は放出される。
したがって、対象区域Aから熱を除去して区域Bへ移し、Bに生じた熱負荷をさらにCへ移し、CからDへ移すという操作を繰り返せば、それぞれの局所区域では温度問題を解決できても、より大きな系から見れば熱負荷の位置を移動させ続けているだけとなる可能性がある。同様の問題は熱に限られない。放射を反射又は偏向すれば、そのエネルギーは別の経路へ移動する。大気流を変更すれば、熱だけでなく物質及び運動量の輸送も変化する。水蒸気輸送を変更すれば、対象区域外の湿度、雲、降水及び水循環へ作用し得る。したがって、対象区域だけを閉じた評価境界として扱えば、局所的成功の外側に形成された物理的影響を見落とす可能性がある。
ここでいうSystem-boundary Consistencyは、熱、放射、物質又は運動量を対象区域外へ移送してはならないことを意味するものではない。開放系においては、それらの移送そのものが要求状態形成の一部となり得る。問題となるのは、移送された熱、放射、物質及び運動量の行方と、その後に形成される物理状態までを追跡した場合に、対象区域で解消した問題と同等又はそれ以上の物理的問題を、別の場所又はより大きな系へ単純に転嫁していないことである。
このため、本研究では、対象区域内部だけで観測された温度低下をもって全体系の成功とはしない。介入によって熱、放射、物質及び運動量がどこへ移動し、その結果としてどのような状態変化を生じさせるかを考慮し、必要に応じてsystem boundaryを対象区域の外側へ拡張して評価する。地表、地下、水系又は周辺大気への移送だけではエネルギー収支上の問題が閉じない場合には、その境界を上層大気及び地球―宇宙間のエネルギー交換まで拡張して考える必要がある。したがって、本研究における温度状態形成は、対象区域内部だけの局所的最適化ではなく、介入によって生じる物理的再配分をより大きなsystem boundaryまで追跡した場合にも、その帰結が物理的に整合することを要求する問題となる。
6.5 固定された物理系の最適化から時間発展する実行可能状態問題への再構成
一般的な工学的最適化では、一定のsystem configuration、boundary conditions及びobjective functionを設定し、その条件下で適切なdesign variable又はconfigurationを求めることができる。しかし、本研究が対象とする大規模開放実環境では、太陽放射、風向・風速、湿度、雲量、周辺気温、地表温度、水系状態その他の外部条件が継続的に変化し、さらに介入そのものによって材料状態、相状態、界面状態、thermal reservoir、輸送経路及び実効的境界条件も変化し得る。このため、ある時刻及び条件において成立した状態が、その後の条件においても同様に成立可能であるとは限らない。
さらに重要なのは、現在行われる物理作用が、現在の温度だけでなく、その後に成立可能な状態の集合そのものを変化させ得ることである。有限のthermal reservoirの利用、材料又は相状態の変化、界面状態の変更、熱・放射・物質輸送経路の再構成、実効的境界条件の変化等によって、現在利用可能な状態遷移が失われる場合もあれば、それ以前には成立しなかった状態遷移が新たに可能となる場合もある。したがって、現在時点で最大の温度低下を与える操作が、将来時点においても最も適切な操作であるとは限らず、現在の局所的成功が将来のPersistence又はRecoverabilityを損なう場合さえ考慮しなければならない。
このため、温暖化対策を、一つの固定されたphysical configurationについて最適値を求める問題としてのみ扱うことはできない。現在どの状態が成立しているかだけでなく、どの状態が到達可能であり、どの状態遷移が実行可能であり、その遷移によって将来どの状態が新たに可能又は不可能となるのかまでを、時間発展する物理系として取り扱う必要がある。第4章及び第5章で扱った状態空間、動的境界、Admissibility、Critical Mode、Failure Horizon、Recovery Path及びFuture-option Preservationは、この時間依存性を含む問題へ接続される。したがって、本研究で扱う問題は、現在の温度低下だけを最大化する静的最適化ではなく、時間とともに変化する物理条件及び状態遷移可能性の下で、要求状態の実行可能性を継続的に取り扱う問題となる。
6.6 中間指標から実世界温度状態を中心とする成果評価への再構成
以上の再構成から、本研究における成果評価の中心も明確になる。CO₂削減量、CO₂e削減量、再生可能エネルギー導入量、発電容量、炭素回収量、投資額その他の指標は、それぞれ政策又は技術の進捗を把握する上で意味を有するが、それ自体が本研究の要求する実世界温度状態ではない。本研究における中心的な成果は、対象となる大規模開放実環境について、対応する非介入状態より最低5°C低い区域平均大気温度が現実に成立することである。
ただし、その温度差が一時的又は局所的に観測されただけでは、本研究が要求する状態が成立したとはいえない。最低5°C低温状態が形成されても直ちに消失するのであればPersistenceは成立しておらず、外乱後に再形成できないのであればRecoverabilityは成立していない。また、現在の温度状態を維持することによって将来の回復経路又は利用可能な物理状態を不可逆的に失うのであればContinuityは成立しない。さらに、対象区域の温度低下が区域外への熱、放射、物質又は運動量の移送によって成立している場合には、その移送自体を否定するのではなく、その移送先及び物理的帰結までを含めてSystem-boundary Consistencyを評価する必要がある。
Formation、Persistence、Recoverability、Continuity及びSystem-boundary Consistencyは、最低5°Cという中心的要求とは別個の目的を無制限に追加するものではない。これらは、観測された最低5°C低温状態が、単なる瞬間的、局所的又は他区域への問題転嫁によって成立した状態ではなく、本研究が対象とする現実の物理系において成立した状態として評価できるかを判断するための条件である。この区別によって、第1章で問題とした中間的proxyと最終的な実世界状態との混同を避けながら、研究成果を温度という明確な物理量へ接続することが可能となる。
6.7 本研究における問題設定の到達点
以上から、本研究では、特定の政策手段、技術手段又は中間指標をあらかじめ最終目的として固定するのではなく、まず現実の大規模開放実環境について達成すべき温度状態を定め、その状態のFormation、Persistence、Recoverability及びContinuityを成立させるために必要となる物理条件を取り扱う。CO₂削減その他の既存施策についても、それ自体を最終的な温度状態と同一視するのではなく、要求状態の成立に作用し得る物理的介入の一部として、その実際の効果及び他の物理作用との関係から評価する。
また、要求状態の形成に関与し得るPhysical Degrees of Freedomについても、CO₂、熱、放射、流体、物質、材料、相、界面、地表、地下、水系、重力又は地球―宇宙間交換等のいずれか一つへあらかじめ限定するのではなく、要求状態との物理的関係から必要な自由度及びその接続関係を取り扱う。ここで重要なのは、多数の物理作用を無差別に追加することではなく、現実の状態形成に寄与する作用を、異なる物理階層、空間尺度及び時間尺度を横断する一つの結合した物理系として捉えることである。
さらに、対象区域における最低5°C低温状態の成立だけをもって問題解決とはせず、介入によって生じる熱、放射、物質及び運動量の再配分について、その移送先及びその後の物理的帰結までを必要に応じて追跡する。System-boundary Consistencyが要求するのは、これらの移送を禁止することではなく、対象区域の要求状態を成立させるために生じた物理的影響をより大きな系まで追跡した場合に、対象区域で解消した問題と同等又はそれ以上の問題を単純に別の場所へ転嫁していないことである。
したがって、本研究における問題設定は、単一の中間変数を最適化することでも、単一の冷却技術を選定することでも、複数の既存技術を単純に組み合わせることでもない。対応する非介入状態より最低5°C低い温度状態を現実の大規模開放実環境に形成し、その状態のPersistence、Recoverability及びContinuityを成立させるとともに、介入に伴う熱、放射、物質及び運動量の再配分をより大きなsystem boundaryまで追跡した場合にも、同等又はそれ以上の物理的問題を単純に転嫁しないために必要な成立条件を明らかにすることが、本研究における問題設定となる。
この問題設定によって、第1章で検討したCO₂を中心とする中間的介入量と最終温度状態との関係、第2章で検討した巨大建築構造物及びシールドによる直接的温度制御とその物理的帰結、第3章で整理した既存科学及び技術の到達点、第4章で抽出した解決すべき課題、並びに第5章で示したKen理論™による理論的取扱いは、相互に独立した論点としてではなく、大規模開放実環境における要求温度状態のFormation、Persistence、Recoverability及びContinuityを成立させるという同一の研究目的の下で接続される。
第7章 Ken理論™について
7.1 Ken理論™の研究体系と本研究の位置付け
Ken理論™は、単一の技術分野又は単一の物理現象を対象として形成された理論ではない。Ken理論™の公開技術文書では、物理的実在、情報、知能、実行可能性、状態遷移、境界、物質、相、時間、空間、重力、宇宙、量子状態、観測、生命その他について研究が継続され、それぞれについて独自の理論、方程式、法則、物理量、状態記述及び実行条件が提示されてきた。公開研究は340本を超え、そのうち初期から中期に位置するFoundational Seriesだけでも213本に達している。その後もObservational Series、Advanced Execution Series、Execution Intelligence Architectureその他の研究系列が展開されている。
これらの研究は、既存の複数分野を一つの分類体系の下に並べたものではない。例えば、Ken理論™の公開技術文書では、Physical Admissibility of Intelligence、Engineering of Existence、Execution of Existence、Execution Physics、Execution Field Theory、Material Phase Law、Nakashima–Einstein Equation、Nakashima Execution Principle(NEP)、Nakashima Execution-Phase Gravity(NEPG)、Nakashima Dynamic Geometry(NDG)、Nakashima Phase-Gated Equation(NPGE)、Executable Geometry、Executable Spacetimeその他が、それぞれ理論的研究対象として提示されている。さらに、これらの研究は、状態又は方程式の提示だけではなく、安定性、相転移、境界、散逸、観測可能性、重力波、宇宙論、ブラックホール、特異点、物質状態及び実行可能性等へ展開されている。
本研究は、このKen理論™の研究蓄積の新たな適用対象として、大規模開放実環境における温度状態形成を扱うものである。したがって、本研究においてKen理論™が必要となったことによって初めて異なる物理階層又は異なる空間尺度を取り扱うものではない。Ken理論™では既に、微視的状態から巨視的物理状態、材料及び相、重力及び時空、宇宙物理並びに観測可能性に至る研究が行われている。本研究では、その研究蓄積のうち、最低5°C低温状態のFormation、Persistence、Recoverability及びContinuityに関係する理論及び物理的取扱いを用いる。
7.2 物理的実在、実行可能性及び状態成立に関する理論展開
Ken理論™では、ある状態が数学的又は形式的に記述可能であることと、その状態が現実の物理系において成立可能であることを同一とは扱わない。公開技術文書では、Physical Admissibility、Engineering of Existence、Execution of Existence、Execution Physics及びExecution Field Theory等を通じて、状態の存在、状態遷移、物理的成立可能性及び実行可能性が研究対象とされてきた。
この研究では、現在状態から候補となる複数の状態又は状態遷移が存在する場合に、それらのすべてが同等に現実化可能であるとはしない。エネルギー、物質、境界、相、履歴、散逸、安定性その他の物理条件によって、成立可能な状態及び状態遷移は制約される。また、ある状態遷移の実行によって次に成立可能な状態集合そのものが変化するため、現在の状態だけでなく、その状態から残される将来の実行可能性も問題となる。
Execution Physicsでは、この問題を単なる制御選択としてではなく、物理的なexecutionそのものに関する問題として扱う。状態が候補として存在すること、そこへ到達する経路が存在すること、その経路が物理条件の下で実行可能であること、実行後の状態が持続可能であることは区別される。この区別は、本研究におけるstate existence、reachability、physical executability、Persistence及びRecoverabilityの区別に直接関係する。
また、Ken理論™ではResidualを単なる計算誤差として扱わず、予測された状態と現実に成立した状態との差異から、未認識の状態、境界又は状態遷移を再構成するための情報として扱う研究が行われている。この考え方は、固定された物理モデルのみから将来状態を決定するのではなく、現実の物理状態との相互作用によって状態認識及び実行可能性を更新するResidual-Driven Reprojectionへ接続されている。
7.3 時空、重力及び特異点問題に関する理論展開
Ken理論™の物理研究は、地表近傍又は工学系に限定されていない。公開技術文書では、重力、時空、宇宙論、ブラックホール、重力波及び一般相対論の特異点問題について継続的な研究が行われている。Foundational Seriesでは、Intelligence–Gravity Field Equation、Nakashima–Einstein Equation、Nakashima Execution Principle、Nakashima Execution-Phase Gravity、Nakashima Dynamic Geometry及びNakashima Phase-Gated Equation等が提示され、その後、GR Fixed-Point Preservation、Curvature Saturation Without Singularities、Executable Spacetime、Cosmological Perturbation、Black-Hole Ringdown、LISA Detectabilityその他へ研究が展開されている。
この系列において重要な対象の一つが、一般相対論における特異点及び高曲率領域である。Ken理論™の公開技術文書では、一般相対論が成立する領域を保持しながら、高曲率領域においてcurvature saturation及びphase-gated dynamicsを導入する研究が進められている。Advanced Execution Seriesでは、Curvature Saturation as a Constitutive Response of Spacetime、Regular Black Holes and Information Preservation、The Nakashima Constitutive Relation、Constitutive Completion of General Relativity and the Elimination of Singularities等が提示され、特異点を不可避な終端としてのみ扱うのではなく、時空のconstitutive response及び有限な幾何学的状態として取り扱う理論が展開されている。
また、Executable Geometry及びExecutable Spacetimeでは、幾何学的に記述可能な状態と物理的に成立可能な状態との関係が研究されている。Finite-Thickness Realization、Causal Transition、Execution Topologyその他の研究では、時空状態、因果状態及び状態遷移の成立条件そのものが研究対象となっている。このため、Ken理論™における重力及び宇宙物理研究は、本研究のために外部から追加される補助領域ではない。
本研究においてsystem boundaryを地表、大気、水系及び地下から地球全体、さらに必要に応じて地球―宇宙間のエネルギー交換まで拡張することも、この研究蓄積と無関係ではない。ただし、本研究では宇宙物理上の理論を温度問題へ形式的に適用するのではなく、対象区域内部で閉じないエネルギー、放射及び物質の物理的帰結を追跡するために必要となる範囲について取り扱う。
7.4 観測及び実験との接続
Ken理論™では、理論式又は概念の形成だけでなく、観測及び実験によって理論の成立可能性を検討する研究も行われている。公開技術文書には、重力波観測、black-hole ringdown、cosmological perturbation、CMB consistency、LISA detectability、multi-channel inferenceその他を対象とした研究が含まれている。また、Observational Seriesでは、SENTINELを含む観測系列が展開され、異なる観測データを用いた検証及び再現性の検討が行われている。
この点は、本研究においても重要となる。本研究で要求される最低5°C低温状態は、理論上の温度trajectory又はsimulation上の状態として成立するだけでは十分ではない。現実の大規模開放実環境において形成されたPhysical Fieldを観測し、対応するCounterfactual Fieldとの差異を評価し、その温度差が実際の物理介入によって形成されたことを検証する必要がある。
また、予測と観測との差異そのものも物理情報となる。予測されなかったheat-flow pathway、fluid mode、material state、phase state、interface state又はboundary conditionが存在する場合、それらは観測されたResidualとして現れ得る。本研究では、この差異を次の状態推定及び物理実行へ反映し、現実状態との継続的な相互更新によってPhysical Field及び実行可能状態を再構成する。
7.5 物質、相、界面及び輸送に関する理論展開
Ken理論™の公開技術文書では、物質及び材料についても、固定された物性値を有する受動的要素としてのみ扱っていない。Material Phase Law、Execution-Phase Boundary、phase transition、correlation、metamaterial、fluid system、dissipation及びtime-crystalline state等に関する研究が行われ、材料状態、相状態、界面状態及び輸送状態の変化が物理的実行可能性そのものを変更し得る問題が扱われている。
本研究では、この点が温度状態形成に直接関係する。材料の電子状態、光学応答、phonon transport、相状態及び界面状態が変化すれば、熱伝導、放射、反射、吸収、蒸発、凝結その他の物理作用が変化し得る。また、それらの変化は材料内部だけに留まらず、地表又は構造物から大気への熱・放射・物質輸送を変化させ、最終的には対象区域のPhysical Fieldへ作用する。
したがって、本研究では、材料、相又は界面を単なる設備構成要素として扱うのではなく、要求状態のFormation、Persistence、Collapse及びRecoveryを変更し得るPhysical Degrees of Freedomとして扱う。ただし、微視的状態から巨視的大気状態への接続は、それぞれについて成立する物理法則及び実際のcouplingを確認して行う必要があり、異なる物理階層の間に存在しない因果関係を仮定するものではない。
7.6 Execution Intelligence Architectureと動的実行可能性
Execution Intelligence Architecture(EIA)は、Ken理論™における研究系列の一つとして、実行可能性、状態遷移、Persistence、Collapse、Recovery及びContinuityをさらに展開している。EIA-IからEIA-XIでは、Subtractive Executable Geometry、Runtime Matter、Executable Matter Physics、Executable Continuity、Accessibility、Accessibility Dynamics、Accessibility Geometry及びAccessibility Field Theory等が研究されている。
EIAでは、Residual、Admissibility、Closure、Execution、Persistence、Projection及びContinuityが、時間発展する実行過程として扱われる。候補となるfutureのすべてを実行するのではなく、現在の物理状態及び境界の下で成立不能又は要求状態を破壊するfutureを除去し、admissibleな状態遷移を形成するという考え方は、Collapse Filtering及びSubtractive Executable Geometryへ接続される。
また、Nakashima–Landauer Quotient(NLQ)及びNakashima–Landauer Geometric Bound(NLGB)では、admissible futureとnon-admissible futureとの区別及びその除去に伴う物理的実行条件が扱われる。本研究では、最低5°C低温状態へ向かう候補操作について、瞬間的なtemperature reductionだけではなく、その操作がPersistence、Recoverability、thermal reservoir、material state、phase state、transport pathway及び将来の実行可能状態へ与える影響を含めて評価する必要がある。
さらに、Accessibility Dynamics、Accessibility Geometry及びAccessibility Field Theoryでは、ある状態又は経路が存在することと、その状態又は経路が現在の条件下で実際に利用可能であることが区別される。Accessibilityは固定値としてではなく時間的・空間的に変化し得るため、現在利用可能なCooling Path、Persistence Path又はRecovery Pathが将来も利用可能であるとは限らない。本研究における動的Admissibility Boundary、Recovery Path及びFuture-option Preservationは、この時間依存する実行可能性の問題と接続される。
7.7 状態、境界、崩壊、回復及びContinuity
Ken理論™では、boundaryを常に固定された外部条件として扱うのではなく、状態及び実行との関係において変化し得る対象として研究している。現在成立可能な状態及び状態遷移は、energy availability、material state、phase state、interface state、reservoir state、transport pathwayその他によって変化し、現在のexecutionそのものが次のboundary及びfuture stateを変更し得る。
このため、Persistenceは単に同一状態を長時間維持することではない。外乱及び内部状態変化の下でも要求状態の成立可能性を保持することが必要となる。また、Collapseは単一の装置又は単一の物理量の異常だけに限定されず、状態遷移経路、境界又は実行可能性そのものが失われる過程として扱われ得る。Recoveryについても、元の数値へ戻すことだけではなく、要求状態を再び成立させる物理的経路を形成又は再形成できることが必要となる。
Continuityは、これらの時間発展を通じて要求状態を成立させる可能性が保持されることに関係する。現在の状態を維持するためのexecutionが有限のreservoirを不可逆に消費し、material stateを回復不能に変更し、又は将来必要となるRecovery Pathを消失させる場合、現在のPersistenceだけが成立していても将来のContinuityは失われ得る。
したがって、本研究では、Formation、Persistence、Collapse及びRecoveryを独立した事象として扱わず、現在のphysical executionによって次にどの状態、境界及び経路が残されるのかを含む時間発展として扱う。Critical Mode、Failure Horizon、Collapse Propagation、Collapse Containment、Recovery Path及びFuture-option Preservationについても、現在の温度値だけではなく、要求状態が将来も成立可能であるかを判断するための問題として位置付けられる。
7.8 本研究におけるKen理論™の適用
本研究では、大規模開放実環境について、対応する非介入状態より最低5°C低い区域平均大気温度を形成し、その状態のPersistence、Recoverability及びContinuityを成立させることを要求する。この問題では、熱だけでなく、放射、流体、物質、材料、相、界面、地表、地下、水系、thermal reservoir、transport pathway、boundary conditionその他のPhysical Degrees of Freedomが関与し得る。また、対象区域に対する物理介入によってこれらの状態及び境界自体が変化するため、固定された一つのphysical configurationを最適化するだけでは問題を取り扱うことができない。
そこで本研究では、Ken理論™においてこれまで研究されてきたphysical admissibility、execution、state transition、dynamic boundary、material and phase state、Persistence、Collapse、Recovery、Continuity、Accessibility、Residual-Driven Reprojectionその他を、大規模開放実環境における温度状態形成へ適用する。対象となるのは、最低5°C低温状態そのものだけではなく、現在状態からその状態へ至るphysical trajectory、その状態を維持できる条件、Collapseへ接続する状態遷移、CollapseをContainmentできる条件、逸脱後に利用可能なRecovery Path及び将来の実行可能状態を保持する条件である。
また、本研究では対象区域を孤立した閉鎖系とは扱わない。熱、放射、物質及び運動量が対象区域外へ移送される場合、その物理的帰結を必要なsystem boundaryまで追跡する。地表、地下、水系及び周辺大気だけでは収支が閉じない場合には、上層大気及び地球―宇宙間のエネルギー交換まで対象を拡張する。この取扱いは、Ken理論™における重力、時空、宇宙物理及び異なる物理状態の研究を、温度問題へ無条件に適用することを意味するものではない。要求状態を現実に成立させるために物理的に追跡する必要がある範囲までsystem boundaryを拡張するものである。
さらに、現実のPhysical Field、Hidden Physical State及びCounterfactual Fieldを継続的に再構成し、実行後に生じた予測との差異をResidualとして取り込み、state space、Admissibility Boundary、Critical Mode、Failure Horizon及びRecovery Pathを更新する。これにより、現在の最低5°C低温状態が成立しているかだけでなく、その状態が次の外乱後にも維持又は再形成可能であるかを時間発展する物理状態として評価する。
したがって、本研究におけるKen理論™の適用は、複数の既存冷却技術を組み合わせるための方法論でも、異なる既存科学を一つの上位概念の下へ配置するためのものでもない。Ken理論™の公開技術文書において長期にわたり研究されてきた物理的実在、実行可能性、状態遷移、動的境界、物質・相、重力・時空、Collapse、Recovery、Persistence、Continuity及び観測との接続を含む研究成果を基礎として、本研究では、大規模開放実環境における要求温度状態を現実にFormationし、そのPersistence及びRecoverabilityを成立させ、外乱及び状態変化を経てもその状態を再形成できるContinuityを保持し、同時にその物理的帰結を必要なsystem boundaryまで追跡可能な実世界物理系を研究対象とする。
